国によって違う食文化。スペイン人はどんなふうに食を楽しんでいるのでしょうか。53歳のときに単身でスペインに渡り、留学生として3年間を過ごしたRitaさんは、初めてスペイン人の自宅に招かれたときに3時間を越える昼食の時間に戸惑ったそう。そんなRitaさんが、食卓を囲むことで気がついた、スペインの食文化について教えてくれました。
※この記事は『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版刊)に掲載された内容を抜粋・再編集しています
すべての画像を見る(全2枚)生活の真ん中に「食卓」がある
スペインで暮らして驚いたことのひとつは、食卓に流れる時間の「密度」でした。
レストランでの食事時間は、2~3時間が当たり前。日本での「さっと食べて、さっと帰る」という食事の感覚とはまるで違います。
注文をすませたあとも、料理が出てくるまでの時間すら、ゆったりと過ごし、会話を「前菜」のように楽しむ。せかせかした空気はどこにもなく、その場にいる人たちが「今、この瞬間」を愛おしむように会話を重ねていきます。
さらに印象的だったのは、「だれと食べるか」が大切にされているということ。料理を口に運びながらの会話、ときには身振り手振りを交えた笑い声が響く食卓。
それはまるで、人生そのものが展開されている舞台のように感じました。
スペインでは、食事は単なる栄養補給の時間ではありません。それは「語り合う時間」であり、「心を通わせる時間」であり、「日常を味わいつくす時間」です。
どんなに忙しい日でも、食事のひとときには心をゆるめ、大切な人と向き合う。家族や友人、恋人、あるいは新しく出会った人と、テーブルを囲んで心をひらく。そこには、日々のちょっとしたできごとから、人生についての深い話まで、あらゆる感情が集まってきます。
食卓には、人と人との距離を縮め、関係性を深める魔法のような力があるのです。
どんなに忙しくても、一緒に食べる時間を大切にする
私が初めてスペイン人の家庭に招かれたとき、正直なところ、戸惑いました。
昼食が14時スタートで、終わったのはなんと17時すぎ。料理はどれも丁寧につくられていて、前菜、メイン、デザート、そしてコーヒーまで、次々と運ばれてきました。
でも、もっとも印象に残ったのは、食事そのものよりも「会話の豊かさ」です。
言葉の壁があっても、だれかがゆっくりと通訳してくれたり、身振り手振りで伝えようとしてくれたりする優しさがありました。そのうちに、わからなかったスペイン語の会話も、表情や空気で「感じられる」ようになっていきました。
スペインの人々にとって、「一緒に食べること」は特別なイベントではなく、日常そのものです。だからこそ、どんなに忙しい日でも、必ず食卓を囲む時間を大切にする。
子どもたちも小さい頃から「家族と食べる時間」がいかに重要かを教えられています。三世代でテーブルを囲む姿は非常によく目にします。子どもたちは大人の会話に耳を傾け、若者は年配の人から人生の知恵を学ぶ。まるで生きた学校のようです。
夕食後にゆっくりと会話を楽しみ、ときには議論が白熱することも。でも、それもまた「違い」を恐れず、「対話」を楽しむ文化。
絆や友情を育むだけでなく、社会とのつながりを実感する時間です。
