国土交通省「空家等現状について」によると、あき家はここ20年で1.8倍も増えており、2025年時点では約820万戸にも達します。グループ合計で18万件の遺品整理の実績をもつ「遺品整理プロスタッフ」の代表取締役社長・石田毅さんとスタッフの田中さんは、これまで数々のあき家を片付けてきました。今回は石田さんと田中さんに、あき家問題の現状と、飼い主を失ったペットたちの現実に焦点を当て、お話を伺いました。
住人が亡くなり、残された1匹の犬…
住人がいなくなり、静かになった家…。石田さんが遺品整理の依頼を受けて見積もりに訪れると、人の姿はなく、代わりにくりっとした目が印象的な一匹の犬が、不安げに立ちすくんでいました。
そのときのことを「すごくかわいい顔をしたワンちゃんで、見た瞬間に胸が締めつけられるような切ない気持ちになった」と、石田さんは振り返ります。
遺品整理の依頼主は、故人の親戚でした。飼いたい気持ちはあったものの、ペット不可のマンションに住んでいるため、犬を飼うことはかなわない…。さらに、中型犬ということもあり、知り合いにあたってはいるものの、引き取り手はなかなか現れませんでした。
「僕にも『だれか探してくれないか』とおっしゃっていたのですが、なかなか見つからなくて…。うちでも犬を飼っているので、他人事とは思えませんでした」(石田さん、以下同)
見積もりのために訪れてから、その犬のことがずっと気になっていた石田さん。ですが、どうすることもできず、気がづけば2、3週間が経っていました。
●今でも忘れられないあの日のこと
そして、迎えた作業当日。聞けば、依頼主は遠方に住んでいて、仕事の都合で2、3日に1度、ごはんをあげに来るのがやっとだったそうです。
作業期間中は自分たちで世話をすることができても、片付けが終わればもうその場所を訪れることはない。そう考えた石田さんは、犬の新しい飼い主を探すために奔走しましたが、結局、願いはかないませんでした。
その後、犬がどうなったのかを知る由もなく、「自分が犬を連れて帰るという選択肢もあったのではないか…?」と、ふと思い出して今でも後悔することがあるそう。
「動物を飼うということは、最後まで一緒にいられるか、自分がいなくなってしまったあとのことも考えておくくらい、覚悟と準備がいる。“孤独死”の問題もありますが、飼い主亡きあとの“ペット”の問題もあるということを改めて感じました」
どうにかしてあげたかったけれど、あのときはどうすることもできなかった…。同じ出来事に遭遇したときの考えてはいるものの、幸か不幸か、それ以来、遺品整理の現場で、同じように残された動物たちに出合うことは今のところないそうです。
