寒さが一段と厳しくなるこの時季、高齢女性が発症しがちなのが「めまい」や「ふらつき」。日常生活に支障をきたす、これらの症状の発生のメカニズムと対策について、『10秒でめまい改善体操』(扶桑社刊)の監修者で、横浜市立みなと赤十字病院 めまい・平衡神経科部長の新井基洋先生に伺いました。
すべての画像を見る(全3枚)めまい・ふらつきの原因の7割は「内耳」に
冬の寒さによって血流が悪くなり、脳や耳の機能が低下。それが原因で体がバランスを取れなくなりめまいが起きます。めまいは、とくに女性の高齢者に悩んでいる人が多いといいます。
厚生労働省が行った「令和4(2022)年 国民生活基礎調査」によると、現在めまいで悩む人は約248万人います。65歳以上に限ると約30%の人が、めまいの症状を訴えています。
また、男性より女性のほうが多いです。新井基洋先生によると「当院のめまい・平衡神経科に通院されている患者さんの平均年齢も65歳で、80代、90代の患者さんも多い」そうです。
めまい・ふらつきはなぜ起こるのでしょうか? 新井先生は、めまい・ふらつきの7割は耳に原因があると教えてくれました。
「耳のつくりは大きく外耳、中耳、内耳の3つに分けられます。そのうち、私たちの体のバランスを司っている内耳に起こる不具合が、めまいの主な原因になります。めまいの症状には大きくわけて3種類。突然激しく目がぐるぐる回る『回転性めまい』、ふわふわと雲の上を歩いている感じがする『浮動性めまい』、ゆらゆら揺れてふらつく『不安定性めまい』になります」(新井先生、以下同)
平衡機能を高めることで、めまい・ふらつきは改善する
めまい・ふらつきのポイントになるのが内耳にある器官「耳石器」。耳石器の中には、粘着性のある「耳石膜」があり、「耳石」という小さな粒がたくさん付着しています。私たちが動いたときに頭が傾くと、耳石が動き、体の傾きや動きを脳に伝えます。
新井先生によると、左右どちらかの内耳で、耳石が異常に多くはがれて三半規管に入り込んだり、三半規管のリンパ液が過剰に増えたりすることによって、バランスの異常情報が脳に伝わり、めまいやふらつきが起こるのです。
「人間の体は次の3カ所でバランスに関する情報を受けとります。
『目=視刺激(目から受けとる情報)』
『耳=前庭刺激(耳から受けとる情報)』
『足裏=深部感覚刺澈(体から受け取る情報)』
小脳はこれらの情報をまとめ、体がバランスをとれるようにコントロールする役割を担っています。目、耳、足のバランスが崩れることは日常的に生じていますが、通常は小脳がそれをうまく補ってくれています」
このようなバランスの崩れは、小脳を鍛え、平衡機能を高めることで改善できるといいます。
「飛行機にたとえれば、小脳はパイロットです。片方のプロペラ(内耳)が壊れ、傾いて墜落しそうな状態(=めまい)になっても、パイロットは安定して飛ぼうとします。パイロット(小脳)を鍛えることで、めまいに強い体をつくることができます」
めまいの受診は何科に行くのがいいのか?
めまいの症状に悩んでいる人は、何科を受診したらいいのでしょうか? 新井先生に聞いてみました。
「めまい・ふらつきの7割は耳に原因があるなら、耳鼻咽喉科だと考えると思います。しかし、私がすすめているのは、まず、かかりつけ医(内科)に相談することです。そして、脳神経外科でCTやMRIなどの画像検査をし、脳に異常がないか調べてもらいましょう。
脳に問題がなかったら、次に耳鼻咽喉科へ。脳の病気の可能性を排除した上で、耳鼻咽喉科を受診するほうが安心です。とくに、脳の疾患が増える65歳以上の男性には脳検査をおすすめします。更年期世代の女性は婦人科を受診する人も多いのですが、めまいの症状自体は耳鼻咽喉科、めまいを得意としているめまい相談医に受診したほうが安心です。
それでもめまいが改善しない場合は、『日本めまい平衡医学会』のホームページを検索して、『めまいの相談医・専門医』を受診するといいでしょう」