物忘れが増えたり、前と同じことができなくなったりすると、「自分も年を取ったな」とため息をつきたくなるかもしれません。でも、じつは脳は年とともに成熟していくため、年代とともにその働きも変わっていくものなのだとか。そこで、20代から50代までの各年代における脳の変化や人生を充実させるための方法について、脳科学者の黒川伊保子さんに伺いました。
進化し続ける女性の「脳」
私たちの脳神経回路には、天文学的な数の回路がありますが、そのすべてが常に活性化していると、いろいろなことの判断ができない仕組みになっています。
たとえば、目の前を猫が横ぎったとしたら、それを「猫」と認知する回路だけが立ち上がらないといけません。象と豚の回路も同時に立ち上がると、それがなにかわからなくなってしまいますよね。
ヒトは、脳神経細胞数が人生最多の状態で生まれてきます。ありとあらゆることを感知できるので、逆に目の前のものがなにかをとっさに判断することができません。
そして、日々の暮らしを重ねることで、生まれてきた環境に必要のない細胞を捨て、残された細胞の関係性をつくることで、家族を認知したり、言葉を認知したりできるようになるのです。
こうして、脳は経験によって知識を増やしながら、一方では、経験によって回路に優先順位をつけて絞り込むことで、とっさの判断を間違わない、より洗練された状態を手にしていきます。
●28歳までの脳は「がむしゃらな入力装置」
その観点で人生を見ると、28歳までの脳は、知識を増やす「入力系」に偏っています。経験によって、さまざまな知識や方法論を手にするときなのです。
脳は、いわば「がむしゃらな入力装置」。恋にも、勉強にも、遊びにも、がむしゃらになれるし、そこから、大事な「生きる知恵の基礎」(どうすればモテるのか、どうすれば儲かるのか…など)を手に入れていきます。
だから、28歳までは、がむしゃらに生きてくださいね。好奇心を感じたこと、あるいは先輩に「こうしなさい」と言われたことに、「自分に合っているのかしら、なにになるのかしら」なんて四の五の言わずに、飛び込んでください。
●人生でもっとも傲慢な30歳の脳は「次の冒険」へ
そして、だれもが28歳を超えると、がむしゃらさを失っていきます。それは、脳が単純記憶力のピークを過ぎ、次の段階へ入ったから。30歳のお誕生日の頃には、ここまでの「入力」のおかげで、その人が生きる環境においての「世の中のしくみ」の裏も表も、上も下も、右も左もわかるようになっています。
そんなわけで、「世の中を見きった」ような気分になるのが、30歳前後の脳の特徴。人生でもっとも傲慢なときかもしれません。でも、その傲慢さも、次の「人生の冒険」へ飛び込んでいく大事な起爆剤。どうぞ、思う存分、傲慢になってくださいね。