読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。
すべての画像を見る(全4枚)ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。
「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。
さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。
【今回の相談】ダメだとわかっていてもつい衝動買いをしてしまう…
ダメだとわかっていてもつい衝動買いをしてしまいます。この前もたまたまお店で見たペンダントにうっとりして、うっかり買ってしまいました。節約しようと決めたばっかりだったのに。なぜひとはつい衝動買いをしてしまうのでしょうか?
(PN.土踏まずで土を踏む!さん)
【作者さんの回答】ダギー少佐が「ワン」と吠えたから
とおいとおい昔の話。人類の文明ができるはるか以前、ほかの惑星では犬の文明ができていました。わたしたちと同じように街を築き、日中は働いて、余暇には音楽や演劇を楽しんでいたのです。
犬たちは科学をどんどん発達させ、ついには宇宙ロケットの開発にいそしむようになりました。ほかの惑星にも自分たちと同じ知的生命体がいるはずだ、この広い宇宙で自分たちはひとりぼっちではないんだと確かめるために、かれらは宇宙を目指すことにしたのです。
●初めての宇宙飛行士に選ばれたのは…?
犬の文明で初めての宇宙飛行士に選ばれたのは、ダギー少佐です。厳しい訓練を乗り越え、みごと選抜されました。ロケットの発射直前、かれは恋人からもらったペンダントを握りしめて、その成功を祈りました。
しかし、宇宙に飛び出したロケットは機材トラブルに見舞われ、まったく動かなくなってしまいました。ダギー少佐が地上に帰る手段もなくなってしまったのです。
ダギー少佐は宇宙を漂います。見渡す限り真っ暗で、ほかに生物はいません。ダギー少佐は孤独に震え、嘆き、叫びました。
ワン……ワ~ン!(訳:ひとりだ……わたしはひとりぼっちだ!)
宇宙をひとりぼっちで漂いながら、かれの目に焼き付くのは流星の光です。宇宙をさまよいながら強い光を発する流星に感動し、涙を流しました。そして、首にかかったペンダントを握りしめながら思います。
(このペンダントも流星にしよう)
ダギー少佐はペンダントを宇宙に放ちました。この広い宇宙のどこかにいる知的生命体が、この加工された宝飾品を発見して、自分の存在に気づいてくれないかと思ったのです。それでだれかが助けにくると考えたわけではありません。ダギー少佐とその恋人が、この世界で愛し合っていたという痕跡が、宇宙のどこかに残ればいいと思ったのです。