新たな挑戦は、まるでドジャース・大谷選手の心境!
すべての画像を見る(全4枚)寺井:はい。ところで新しいお店の方はいかがですか。
三國:人生100歳時代って言われるなかで、70代の挑戦とかってかっこつけちゃったけど、ホントやらなきゃよかったと後悔しています(笑)。シェフってみんな70手前で引退するじゃない。あれは大変よいことだと、自分が店を始めてみてよくわかった。
寺井:それは体力的に? 仕入れから調理からおもてなしまで、すべて1人でされているんですよね。
三國:そう。1から10まですべて自分でやるお店をもつことが、僕の長年の夢だったから。納得のいく食材を自分で仕入れ、食材の状態とお客様の要望を聞きながら即興で料理をつくる。それはお客様のための料理であると同時に自分のための料理なんだ。コロナ禍のときに、つくりたい料理をつくれないということを初めて経験して、これをやらずに死ねるかと思って始めたわけだけど…。
寺井:70代で、だれにもできないことですよ。
三國:うん。だからすごく大変で、でもだからこそ、だれもやれないことをやっているという感じはあるな。ドジャースの大谷くんの心境ですよ(笑)。でもねえ、若い頃は1週間ほとんど寝なくても、1日ガーッと寝れば回復したんだけど、70すぎると疲れが取れないの。まあ、プロだからお客さんも前ではシャキっとしています。でも、その日の営業が終わって一度座るともう立てない(笑)。
2人のシェフが長く続けるために始めたこと
寺井:僕はシェフと10歳違いでして、昔一緒に働いていたときからずっと、自分の10年後になりたい姿として、シェフの背中をずっと追いかけてきたんです。ああ、三國シェフは70代になってまた挑戦されるのか、僕もそこまでやらなきゃならないな、と考えて。
三國:4年くらい前からね、体力が勝負だということは薄々気づいていたんですよ。それで週2回の筋トレと週1のマッサージをもうずっと続けています。先生が、今の筋肉を75歳くらいまで維持できれば80歳までいけるかもしれない、っていうからがんばっています。今はそんな自分との闘いだね。僕はそれができると思って始めたわけだし、まあまあやってますよ。
寺井:じつはぼくも長もちさせなきゃと思って、ジョギングを始めました。
三國:そう目標はできるだけ長く続けること。僕は71歳になってね、地位も名誉もお金もある。モテるしね(笑)。だから望むものはもうなにもない。あとは店を本当に75歳、80歳まで続けられるかどうか、人生の目標はそれだけです。
寺井:僕の目標は10年先を行く三國シェフの背中。今日はこうしてお話する機会をいただき、70代になってもなお挑戦し続けている姿を目の当たりにして、自分も挑戦しつづけないといけないなと思いました。
フランス料理の巨匠、三國シェフの新刊『三國、燃え尽きるまで厨房に立つ』(扶桑社刊)は、激動の人生を凝縮した1冊です。30歳で開業し37年間ほぼ満席だった「オテル・ドゥ・ミクニ」を閉店し、71歳でわずか8席の新店をオープンさせた理由とは? 昭和、平成、令和を駆け抜け、常に時代を切り開いてきたシェフが、「ミクニ」で成し遂げたこと、そして、今なお追い求める夢をつづった自伝は必見です。


