大変な仕事を続けられる2つの理由
すべての画像を見る(全6枚)同様の質問はこれまでにも何度も受けてきたという石田さん。その理由は2つあり、まず1つは、石田さんが学生だった16、7年前にさかのぼります。
「祖母が亡くなり、家族は深い悲しみに暮れていました。でもその一方で住居の退去期日が迫っていたため、早急に立ち退きの準備を進める必要があったんです。当時は今のような専門業者がほとんどなく、選択肢もごくわずか。電話帳をめくりながら苦労し、ようやく見つけた業者に、藁(わら)にもすがる思いで依頼しました」
しかし、その業者の態度はあまりにも酷いものでした。思い出のつまった遺品を放り投げたり、「くっさ」などと心ない言葉を浴びせられる始末。さらには、法外な値段を請求されるという目に遭ったそうです。
心に深い憤りを抱え、「そのとき感じた悔しさや心の怒りは、今でも忘れることができません」と石田さんは語ります。
●家族だとかえってしんどいことも…
そして2つ目が「他人だからこそ」という理由です。金銭的な理由で施設に入れない方、疎遠になった親子関係、身内では片づけが困難なケースなど、家庭ごとに異なる複雑な事情をたびたび目の当たりにしてきた石田さん。
「思い入れや愛着がたくさんある分、家族だと割りきれずに片付けがしんどいということもありますよね。でも、業者は故人や親族から適度に距離があり、対価の発生する“仕事”だからこそできることがある。
他人だからこそ丁寧な仕事をしようとも思えるし、遺品整理に向き合って故人に思いを馳(は)せることが、ご遺族の気持ちの整理につながることもある。実際にそういう場面に何度も遭遇してきて、少しでもお役に立てたことがうれしいんですよね。だから続けていけるんです」
「遺品整理」という仕事は、故人や遺族に寄り添い、その思いをともに尊重するもの。そしてそれはただの片付けではありません。遺品整理は、『家族』として故人に最期のお別れをするためのかけがえのない時間なのだと教えてくれました。
※ 実際の体験をもとに、依頼者および遺品整理業者の許諾を得て制作しています。個人情報保護の観点から、登場人物や一部の状況は実際の事例を損なわない範囲で変更しています