いくつになっても「対人関係」に関する不安は悩みの種。とくに、人からの頼み事や、あまり得意でない人からの誘いを断りたくても断れない、と悩んだことがある人は少なくないのでは。年を重ねてから人と関わる上で気をつけるべきポイントについて、30年以上にわたり高齢者の精神医学に携わってきた医師の和田秀樹さんに教えてもらいました。
すべての画像を見る(全5枚)「いい人」をやめるなら「断る」からはじめよう
ついつい、いい顔をしてしまうことに悩んでいる人のなかには、自分のことを「気が弱い」と思っている人が多いのではないでしょうか。
たしかに、気が弱そうな人は、貧乏クジを引くことが多いかもしれません。
・頼まれると嫌と言えない。
・自分の意見を強く主張できない。
・なにか角が立ちそうなときは、いつも自分が引いてしまう。
これらに身に覚えのある人も多いでしょう。残念ながらこの世のなかは、気が弱い人ほど世間からさまざまなことを押しつけられるようになっています。世間の人たちは、気が弱い人を上手にかぎ分けて頼みごとをしてくるのです。
たとえば、締め切り直前まで放置されていた仕事。もうだれかに手伝ってもらわないと、締めきりに間に合わない! こういう状況で頼まれれば、ふつうなら「えー、急に言われても…」とか「どうして放置していたのですか!?」などと嫌みのひとつでも返すところです。
ところが気の弱い人は「いいですよ。ひとりじゃ大変ですもんね」などと、文句も言わないで優しく手伝ってくれたりします。
あるいはお茶くみや掃除、プリンターのトナー換えやシュレッダーのゴミ捨て。気の弱い人は自分が忙しいときにそうしたことを頼まれても、嫌な顔をせずに「はい、わかりました」と気前よくやってしまうのです。
そうこうしているうちに、いつの間にか気の弱い人がやるのが当たり前という空気ができてしまいます。つまりはお人よしなのです。
このようにして断れないでいると、しまいには「人がみな怖い」という社交不安障害(SAD)になってしまうこともあります。そうならないまでも、なんとなく人と会うのがおっくうになってくるものです。
そうならないために、ここはひとつ「断り方」を身につけたいところです。
断ることの怖さは、断ることでしか克服できない
とはいっても、いきなり「やりたくありません!」などと意を決したように強く断ると、さすがに角が立つし、あなたを取り巻く周囲の空気も悪くなります。
ではどうしたらいいのでしょうか。「方便」というものを使ってみましょう。
これまでずっと頼みごとを聞いてきた相手なら、「今日はどうしても時間がないんです」「すみません、急ぎの用事があって」などと言えば、たいていの人は「ああ、本当に時間がないのだな」と思います。たとえウソであっても、見抜かれることはほとんどありません。
いつも相手の要求を断る人だと、「時間がないと言っているけど、要するにやりたくないんだな」と勘繰られますが、これまで頼みごとを聞いてきた“実績”があるあなたの言うことですから、方便であっても信じてもらいやすいのです。今までの気の弱さが幸いして、かえって断りやすい状況になっているのです。
これまで断ることができなかった人は、断ることに対して多少の怖さを抱えています。断ること自体、なにか相手を否定するような、相手にケンカを売るような気がしてしまうのです。
そんな場合のいちばんの薬は、試しに「断ってみる」ということです。断ることの怖さは、断ってみることでしか克服できません。
必要なのは、事前に方便(言い訳)のセリフを用意しておくことだけ。ちょっとすまなそうな顔をして、「手伝いたいのですけど、どうしても外せない用事がありまして…」などと言えばいいのです。その瞬間、あなたは断るのは案外たいしたことではないと実感するでしょう。