リノベーションのコスト計画に参考にしたい事例を紹介します。今回は築年数の長い戸建て物件を取り上げました。なにを割り切り、どんなことにコストを掛けるべきか?そもそも、築年数の経った物件って、リノベするべきなの?断熱性や耐震性などの住宅性能も含め、気になるところを、解説していきます。登場してくれたのは、建築家の黒澤彰夫さん。コストにまつわる工夫、アイデア、リノベの楽しみ方を聞きました。
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木造戸建てリノベで古きよきものに囲まれるポイント1:物件の好きなところを見つけて、生かすポイント2:最初から造り込みすぎないポイント3:住宅設備は必要最小限にポイント4:家族とDIYして愛着もアップ!教えてください!戸建てリノベってどうですか?木造戸建てリノベで古きよきものに囲まれる
伯父が長く住み、あき家になっていた築44年の木造住宅をリノベーションした黒澤さん。祖父や伯父、父の思い出を引き継ぎ、古い家の持ち味を最大限生かすことに。コストを抑えながらもお気に入りの住まいが完成しました。
間取り(リノベーション前後)
メインは耐震補強と内装の改修。洗面所、風呂、トイレなどの水回りの位置変更はなし。内装に和紙や漆喰、無垢材など自然素材を用い、建具などは古民家の改修中に出合ったものを取り入れました(2017年1月竣工 東京都府中市)。
黒澤さん宅の工事費の内訳
ポイント1:物件の好きなところを見つけて、生かす
既存物件のいいところを生かすと無駄な工事がなくなりコストダウンにつながります。黒澤さんの場合、「窓が多い」という特徴を生かし、窓を開けたときの風の流れ方、窓の外の景色の見せ方などを工夫。既存窓をそのままにし、解体費用を削減しました。
納戸を解体し、キッチンに。新たに窓を設けることで、4方向から光が差し込む明るいリビングになりました。
ポイント2:最初から造り込みすぎない
キッチンや洗面所の収納は、シンプルな棚にしてコスト削減することに。実際に料理をするなど生活を営んでいるうちに、図面上ではわからない「本当の使い勝手」が見えてくるものです。必要性を感じてからあとづけできるように、強度の高い下地材を仕込んであります。
「暮らし方や家族構成は変わっていくこともあります。家は、育てていくのも楽しい」と黒澤さん。2階のアトリエの本棚やデスクも極力シンプルなつくりに。
ポイント3:住宅設備は必要最小限に
水回りやキッチンの什器は、ひとつ前の型を選んだり、備品一つひとつを細かく選んだりしてコスト削減。「照明も、自然光が差し込む家ならたくさんなくてもいい」と黒澤さん。キッチンや廊下の照明は、白熱灯ひとつで十分間に合っているそうです。
ポイント4:家族とDIYして愛着もアップ!
伯父と父に手伝ってもらいながら、ほとんどの内装工事をDIYしています。漆喰を壁に塗り、フローリングを張り、家具を組み立てました。メーカーや職人さんに謝礼を支払って指導してもらい、仕事の合間を縫って、1か月半をかけて完成させたそうです。
「なかなか時間が取れない人でも、1階だけ、1室だけでもDIYすると、家がもっと好きになります」(黒澤さん)。
教えてください!戸建てリノベってどうですか?
注文住宅さながらに、自分の好みの内装を実現できる戸建てリノベーション。でも、築年数を重ねている木造住宅に行うにはやっぱりデメリットもありそう。
築44年の木造住宅をリノベし、実際に2年間暮らしている黒澤さんに聞きました。
Q.一番コストをかけた部分はどこですか?
A.玄関です。戸建て住宅の「顔」は玄関だと思うんです
アトリエを兼ねているので、住宅の顔となる玄関は、多少お金がかかってもいいものをつくりたいと思いました。
耐久性の高いピーラー材を用いて重厚感のある玄関扉にし、室内への採光を考えてガラスサッシを入れました。外から見て「ほっとする」玄関って、もしかしたら町の治安にも影響するかもしれない。玄関周りの緑も絶やさずに、いつもきれいにしています。
Q.古い家って寒くないですか?
A.断熱材はいいものを。さらにペアガラスにすると快適です
断熱材をランクの高いものに入れ替え、窓をペアガラスにすれば内外の気温差がなくなり、冬でも快適に過ごせます。さらに、サッシ枠を樹脂にすると、結露対策になります。
といっても、じつは、わが家はペアガラスを一部しか入れていません。2階は日当たりがよく、既存のサッシ窓がデザイン的にレトロですてきだったから。新たに木枠を設けて、カーテン代わりに内障子を入れました。サッシと障子の間に空気層ができるので寒さ対策になるんです。おかげで、この冬もそれほど寒さは感じませんでした。
Q.造りつけの棚に憧れています。コストダウンの方法を教えてください
A.取っ手や扉をシンプルなものにするといいですね
わが家のキッチンや下駄箱、洗面所の収納などは造りつけですが、開き戸を入れずにオープンにすることでコスト削減ができました。
開き戸を入れる場合、貫通穴を設ける、あるいは、戸の下から手を入れられるようにしておくと、それが取っ手代わりに。デザイン的にもすっきりします。わが家では、造りつけの下駄箱は取っ手を設けずに貫通穴にしています。
Q.中古戸建の場合、耐震補強は必須ですか?
A.設計者や工務店、第三者機関に、床下までしっかり見てもらいましょう
日本では大規模地震がいつ来るかわからない状況ですから、耐震補強は考えたほうがいいでしょう。とくに、昔ながらの木造住宅には耐震補強が備わっていない場合もあります。
設計者をはじめ、第三者機関などに依頼して、建物の基礎や接合部などをしっかり見てもらい、報告書を提出してもらいましょう。減税制度などもありますので、調べてみてください。
●教えてくれた人/黒澤彰夫さん(アトリエムスタ設計室)
アトリエRAUM一級建築士事務所勤務後、2017年に独立。和紙や漆喰、無垢材など自然素材を生かした住宅や店舗の設計、リノベーションなどを手掛ける。
撮影/山田耕司 ※情報は「リライフプラスvol.37」取材時のものです