40歳を過ぎた頃から疲れやすい、いまいち元気が出ないなど、心身ともにさまざまな不調を感じやすくなります。そんなときに頭をよぎるのが「更年期」の文字。「今の不調は更年期障害? あるいは病気?」「判然としないとき、まずはどうすればいいの?」このような不安の解決策となるよう、今回は産婦人科医の粒来 拓(つぶらい・たく)先生に「更年期障害と間違えやすい病気」などについて解説してもらいます。
すべての画像を見る(全6枚)更年期症状と間違えられやすい代表的な病気
更年期障害と間違えられやすい症状としては、下記の3つが多いと感じます。
●メンタル系の不調
いちばん多いのが、メンタルの不調。更年期に差しかかると女性ホルモンのエストロゲンが減少します。その影響で気持ちを安定させるホルモン・セロトニンが減少し、これによりメンタルが不安定になったり、睡眠の質が下がったりします。
ただ、なかには必ずしも女性ホルモンの減少が原因で、メンタルの問題が起きているとは限らない人もいます。じつは、更年期はうつ病発症のリスクが高い時期。実際に有病率も高くなる時期です。
原因は単純に、ライフスタイルなどの変化により、心に余裕がなくなるから。うつ病を引き起こす原因のひとつに「環境要因」がありますが、更年期世代はまさに環境が変化しやすいタイミング。たとえば、子どもが思春期や受験期であったり、親の介護中であったり、仕事で重要なポストを任されるようになったりと、これまでの日常とは異なることが増えます。自分以外の問題が山積みになると、責任感がある方ほど無理をして心がポキンと折れてしまいがちです。
更年期障害による抑うつ状態と、精神的な病気の区別は難しい場合があります。婦人科と心療内科、まずどちらに相談しようか迷うときは、気軽に婦人科でも相談を。生活指導や漢方療法、ホルモン補充療法(HRT)などの治療を受けても改善が見られない場合は、心療内科を受診し、専門医にご相談することも選択肢のひとつです。
●循環器系の疾患や甲状腺機能障害
女性ホルモンは卵巣から分泌されますが、その指令を出すのが脳の「視床下部」です。視床下部は脳の下垂体を通して卵巣に「女性ホルモンを分泌しなさい」と命令を下します。
ところが、加齢とともに卵巣機能は低下。女性ホルモンを出すように視床下部から命令をされても、卵巣は思うように女性ホルモンを分泌できません。十分に分泌されないことを知った視床下部は大混乱。何度も「女性ホルモンをもっと出しなさい!」と命令を下すのです。
また、視床下部は自律神経のコントロールセンターでもあるため、こうした混乱は自律神経にも影響を及ぼします。
自律神経は、私たちの体の血圧、体温や発汗、呼吸などを一定に保つように働きますが、バランスが乱れることで、動悸が早くなったり、血圧が上がったり、暑くないのに大量の汗をかいたりするのです。更年期障害で比較的多い症状にホットフラッシュも、こうした自律神経の乱れが関係しています。
このようなメカニズムから、更年期には自律神経の乱れによる動悸やめまいが起こりやすいですが、同時に循環器系の疾患のリスクも高まる時期です。動悸やめまいを感じたら、自己判断せずに医療機関を受診し、原因を特定することが重要です。
また、バセドウ病や橋本病といった甲状腺機能障害も更年期世代の女性に多い疾患です。動悸や発汗、冷えや疲れなど、更年期と似た症状を伴うことがあります。気になる症状があれば、医療機関で検査を受けることをおすすめします。
●関節のトラブル
更年期になると、関節痛が増えます。これは、女性ホルモンのエストロゲンの減少により、関節と関節の間にある滑膜という部分に炎症が起きやすくなるためです。
関節痛のほか、朝に手指のこわばりがみられることも。俗に「メノポハンド」といわれる更年期症状の場合も考えられますが、ほかに関節痛や手指のこわばりが見られる代表的な病気がリウマチです。リウマチは40~60代の女性に発症率が高い病気です。症状が強い場合は整形外科を受診し、専門医による詳しい検査を受けることをおすすめします。



