「こんな大人もいる」と知って欲しい
すべての画像を見る(全5枚)小学6年生の1年間、ムツゴロウさんの著作を通じて、こういう大人もいるということ、こういう生き方もあるのだと知った。
大変おこがましいことだけれど、僕がこうして本を書いたり、アリ柄のTシャツを着てテレビやYouTubeに出て、アリのおもしろさを熱弁したり、子どもたちの科学教育に関わったりしているのは、ムツゴロウさんから受け取った「よきもの」を次の世代の子どもたちに引き渡していきたいという思いからである。
僕が子どもだった頃、経済は右肩上がりで、だれもが豊かさや便利さを追い求め、その代償として自然を壊し、大切ななにかをふるい落としていった時代だった。僕はその変化に違和感を覚えたのだが、令和の今は不安の種も違うだろう。
成長神話は過去のものとなり、閉塞感のなか、効率と結果ばかりが重視される息苦しい社会になっている。そして、地球温暖化による異常気象は、すでに私たちの日々の生活に影響を与えている。
社会を包む空気は違うけれど、僕のように「社会に自分の居場所がないのではないか?」「この世界で生きていけるだろうか?」――そんな言葉にできない不安を抱えている子どもたちはいるはずだ。
そんな子どもたちに、アリについて嬉々と語る大人を見て、「こんな生き方もあるんだ」と知ってもらえたらいい。「じゃないほうの生き方」はある。それを知るだけで、人生の幅が広がる。あの頃の僕と同じように、少し生きていくことがラクになるかもしれない。
書籍『アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく』(扶桑社刊)では、 “アリ先生”こと村上貴弘さんのユニークな研究の日々がつづられています。先生のイラストによるアリ図鑑と、アリの音声が聞ける特典も収録。知的好奇心を満たす、子どもから大人まで楽しめる科学エッセイです。
