犬との暮らしが、新たな出会いを運んでくれる
すべての画像を見る(全3枚)犬と生活することで、新たな人間関係が広がっていくのも思わぬ喜び。三四郎くんを通じて知り合った「犬友」も大勢いるそう。
「パリのカフェやビストロはどの店も犬連れOKだし、三四郎がいるとみんな笑顔でかわいいね、と話しかけてくれる。僕は難しい性格で、人とのコミュニケーションがなかなかうまく取れないんだけど、犬を連れていると不思議と仲よくなれるんです。
つい先週、散歩していたら三四郎と同じ犬種で、まったく同じ毛色の子が目の前に現れて。飼い主のおばあちゃんと話していたら、同い年で誕生日も一緒。三四郎はパリから250kmくらい離れたノルマンディーから来たので、まさか…と思いつつ『ブリーダーさんはこの人じゃないですか?』と聞いたら『そうよ』と。なんと、三四郎と兄弟の子だったんです。9月の誕生日には公園で待ち合わせしてお祝いしましょうね、とお別れしましたが、すごい偶然ですよね。
大学生になって忙しくなった息子も、犬を口実にちょくちょくガールフレンドと一緒に会いに来てくれて。三四郎が僕と息子をつなぐ役割も果たしてくれています」
「さびしさをまぎらわしたい」と始まった犬との暮らしですが、今はそれ以上の幸せを三四郎くんからもらっているという辻さん。
「つらいことがあって落ち込んでいると、三四郎がそばに来て寄り添ってくれるんですよね。その瞬間に『ああ、僕はひとりじゃないんだな』と実感できます。言葉はしゃべれないけど、今は水が飲みたいんだな、外に行きたいんだな…とテレパシーのように感情も伝わってきますしね。
僕はこれまで一生懸命に創作活動をして、孤独に戦って生きてきたつもりだけど、僕がいなきゃ生きていけない子がいると思うと、『もうちょっとがんばらなきゃな』という気持ちがわいてくる。自分の存在理由を与えられてもらっています」
パリ在住の作家・辻仁成さんが愛犬・三四郎との日々を描いた新刊エッセイ『犬と生きる』(マガジンハウス刊)。大学生になった息子の「巣立ち」や、60代を迎えた自身の「終活」についても綴られています。
