50代、60代と年齢を重ねるなかで、体の衰えだけではなく脳の衰えを実感している人も多いはず。「脳は鍛えなければ加齢とともに衰えてしまいますが、習慣次第で能力を維持、向上させることができます」と話すのは、脳トレの第一人者でもある東北大学教授の川島隆太さん。ここでは、「脳を老けさせない」ための健康習慣をご紹介します。

※写真はイメージです
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中年期は「肥満」も「痩せ気味」も認知症リスクが高い

60代を過ぎたら、食事の内容だけでなく「体重」「体型」にも意識を向けるといいと思います。

ここでは、「認知症と肥満にはどんな関係があるのか」ということについてお話しします。高知大学の研究グループが行った、中年期40代から50代、60歳手前の人を対象にした研究では、「標準体重」であることが最も脳の健康にはいいという結果になりました(※)。

※Tashiroら Alzheimer’s and Dementia2023

「標準体重」はどう定義されているかというと、BMI(ボディーマスインデックス)が指標となっています。BMIとは肥満度を表す指数で、以下のような計算で求められます。

BMI=体重(㎏)÷{身長(m)×身長(m)}

この数値が18.5から24.9の人たちが、いちばん標準的で、太りすぎでも痩せすぎでもないというふうに言われています。

中年期の年齢の人たちでは、標準体重の人と比較すると、BMIが25以上で「肥満」と定義されるグループ、BMIが18・4以下の「痩せ気味」のグループが、標準体型の人よりも認知症のリスクが高いという結果が出たのです。

つまり、中年期の肥満は脳によくない、かつ、痩せているということも、じつは認知症のリスクが高いということがわかります。「標準体重」がいちばん健康にいいのは、当たり前といえば当たり前ですよね。

では、年齢が上がっていくと、どうなっていくのでしょう?

60代以降になると「肥満」より「痩せ」のほうが脳に悪い

この研究では、10年後も追跡調査をしていますが、その時点で見てみると、いちばんリスクが高く出てくるのは「痩せ」のグループです。肥満のグループよりも「痩せ」の人たちのほうが、認知症になるリスクが高いという結果になったのです。

追跡していくと、老年期になって体重が増える人と減っていく人がいましたが、体重が減っていく人のほうが認知症になりやすいということもわかりました。

ですから、脳の健康という観点からいえば、60歳以降は「痩せる」ことを意識する必要はないのです。逆に、自然と体重が落ちていくというのは危険なサインであるというふうに思ってもいいでしょう。

ただし、これは脳の健康という観点から見た話です。身体の健康という点から見ていくと、やはり肥満というのは生活習慣病の危険因子であって、そのなかでも特に怖いのは動脈硬化性疾患になります。ただただ太っていくと、動脈硬化が進んで、いろいろな症状を引き起こす可能性があります。

高年期は「痩せる」ことへの意識を変えたほうがいい

では、肥満は脳の血管などに悪影響があるのか。これは欧米のデータですが、中年期までは肥満というのは動脈硬化を進める原因で、非常に身体によくないのですが、それ以降は太っていようが、痩せていようが、動脈硬化との因果関係はないということもわかっています(※)。

※Fliotsosら Journal of American Heart Association2018

ですから、高年期になったら太っていても認知症と動脈硬化を過剰に心配しなくても大丈夫だといえます。

ただ、体重が増えることによって身体にガタはきます。身体機能が低下し、ひざが悪くなって股関節にも影響が出る、結果的に日常生活の動作がスムーズに行えなくなるというリスクはあります。ですから、やはり身体を動かすのがきつくなるような「極端な肥満はよろしくない」といえるでしょう。

中年期までは極端な肥満にならないようダイエットを心がけたほうがいい。ただ、これまで医学のエビデンスとしては、高年期に入った後、60歳を過ぎたあたりからは、太っているということはリスクにならず、どちらかというと痩せるということのほうが健康リスクが大きいのです。

60歳を過ぎたら、「痩せる」ことへの意識をガラッと変えたほうがいいでしょう。