「飲酒は適量ならいい」は間違い?

飲酒
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脳にとってお酒はいいものでしょうか、悪いものでしょうか。

「酒は百薬の長」ということわざもあり、今までストレス解消やリラックス効果、ワインのポリフェノールなど、プラスの効果も喧伝されてきました。

しかし、飲酒が脳にとって想像以上に悪影響を及ぼすことが、昨今の研究で明らかになっているのです。

その悪影響とはなにかというと、脳の萎縮です。イギリスの研究チームが、気になるレポートを発表しました(※)。

アルコール摂取量が増えるほど、脳の海馬の萎縮リスクが上昇するというものです。平均年齢43歳の人たちを対象に、30年にわたってアルコール摂取量と脳の変化を調査した結果、アルコールを飲まないグループに比べると、適量飲酒のグループの海馬の萎縮リスクは約3倍、多量飲酒のグループは約6倍に高まることが判明したのです。

※Topiwalaら British Medical Journal 2017

「海馬」は記憶を司る器官です。海馬の機能が低下すると、新しいことが覚えられなくなります。さらに日常的にお酒を飲みすぎると、慢性的な記憶喪失を引き起こす恐れすらあるのです。

もうひとつ、お酒と脳に関する論文を見てみましょう。フランスの研究グループが、アルコールの飲みすぎは、あらゆるタイプの認知症を発症する可能性の高い危険因子であると発表しました(※)。特に早期発症型認知症のリスクが高まるというのです。

※BurtonとSheron The Lancet 2018

フランスの約3000万人の医療記録を解析したという大がかりなもので、アルコール依存症がある人は、認知症リスクが男女とも約3倍も高まることが報告されました。

また、全体の約5%にあたる約6万人が65歳未満に発症する「早期発症型認知症」と診断されました。さらに、診断を受けた患者の半分以上がアルコールの飲みすぎと関連していることも判明したのです。

お酒を飲みすぎた後に記憶が飛んでしまう状態は、アルコールによって引き起こされる「アルコール使用障害」というものですが、アルコールを過剰に摂取することが恒常的になると、アルコール使用障害だけではなく、認知症のリスクも高まってしまいます。

「酒は百薬の長」という説は、近年の研究では残念ながら否定すべきものといえるでしょう。

アルコールを飲めば飲んだだけ脳は萎縮する

こうした話を聞いて、「自分は飲みすぎてはいないから大丈夫」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

「適量ならいいだろう」と考えたくなりますが、東北大学が65歳以上の健常者を対象にアルコールと脳萎縮の関係性を調べたところ、アルコール摂取は、脳血管障害のリスク因子となることや、生涯におけるアルコール量が多くなるほど脳容積が少なくなることも確認されています(※)。つまり、一度にではなくても、飲めば飲んだだけ脳は萎縮するということです。

※Takiら Alcohol,Clinical and Experimental Research 2006

このようにアルコールは少しでも飲めばリスクになるというエビデンスが揃いました。大量飲酒や飲酒を習慣づけることは避けるのがベストですが、お酒を飲みたい人からすれば、まったく飲まないというのは辛いことでしょう。ではどれくらいまでならいいのか?

適切とされるお酒の量は想像以上に少ない

厚生労働省の発表では、生活習慣病のリスクを高める純アルコール量は1日あたり男性が60g以上、女性は40g以上です。適切な量としては1日あたり男性が20g、女性は5~10gとされています。

純アルコール量をお酒に換算してみると、アルコール度数5%のビールなら約500mL、アルコール度数15%の清酒は約170mL、アルコール度数12%のワインなら約210mL、アルコール度数40%のウイスキーやブランデーなら約60mL、アルコール度数35%の焼酎なら約70mLです。

自分が普段飲酒している量は、純アルコールにするとどれくらいになるかは次の計算式から導き出せます。

お酒の量(mL)×アルコール度数/100×0.8=純アルコール量(g)

どうでしょうか。適切とされる量は想像以上に少ないと思いませんか?

下戸の私には痛くもかゆくもない結論ではあります。欧米では健康志向の高まりにより、食事中にアルコールを飲まない人、とくに若者が増えていて、レストランのメニューには、従来からあるジュース類以外にも、多くのノンアルコール飲料が書かれています。

飲酒習慣をやめられない人たちも、わかっちゃいるけど止められないと開き直らず、こうしたトレンドにのって、少しずつ酒量を減らしていくと、脳と身体の健康リスクを下げることができるかもしれません。

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