読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。
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ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。
「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。
さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。
【今回の相談】SNSを見て他人の生活に嫉妬してしまう
インスタグラムなどのSNSを見て、他人の生活に嫉妬してしまいます。どうして自分はこんな生活ができないだろうと考えてしまいます。(PN.ノートさん)
【作者さんの回答】足音の持ち主はどんな人物だろう?
ある日、わたしは「足音」を拾った。それはこんな音だった。
タッ、タッ、タッ
拾ったからには、落とし主を探さなくてはいけない。
わたしはいろんな友人を家に呼んでは、目のまえで歩いてもらった。友人のヒロはフリーランスのエンジニアで、大学時代に知り合った。身長が高く、中高と野球をやっていて肩幅も広い。いつもスウェット素材のラフな格好をしている。
パタン、パタン、パタン
ちがう。ヒロはスリッパを履いていた。それもサイズがあっていないので、歩くたびにかかととスリッパが離れて間の抜けた音がする。
「ヒロ、ぜんぜんちがうよ」
わたしが首を横にふると、ヒロは不思議そうにわたしを見つめた。事情を話すと深く同情してくれた。
「まったく状況は理解できないが」とかれは微笑む。「理由もなく悩む時期がぼくにもあったよ」
そう言ってかれはわたしをなぐさめてくれた。
これで知り合いのすべての足音を聞いた。しかし、持ち主は見つからない。どうやら身近な人物の足音ではないようだ。
わたしは頭を抱えた。あらゆる方法を試してみた。街中に張り紙をし、インターネットに書き込み、知り合いのツテもたどった。それでも足音の持ち主は見つからない。
●足音の主について想像していると…
わたしはこの足音の主がどんな人物なのか想像を膨らませた。
歩くテンポが早いので快活な性格に違いない。ということは、友人が多い。充実したプライベートを感じさせる。ホームパーティをやるような人物だ。
そして、この音の響き方は革靴だ。それもあまり擦り切れていない。仕立てたばかりだ。この革靴に合わせて上品なスーツのセットアップもそろえているだろう。経済的な豊かさが垣間見える。
革靴を履いて出かけるということは、ある程度のドレスコードを求められるレストランへ行くに違いない。高級なワインの出るような店だ。量が少ないわりに、値段は高いコース料理が出てくる。客はそのことをなにも気にしていない。
そのときはあっけなく訪れた。突然、家の電話がジリリと鳴った。