作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回、高橋さんがつづってくれたのは、来るお正月に向けてのお餅のお話です。
第10回「正月目指して、お餅つき!」
●餅は日本人にとって一番のハレの食べ物だと思う
ということで、あっという間に年の瀬。11月から先は倍速で進んでるんじゃないかと思うくらいに早かった。クリスマスも終えて、さて大掃除に気合いを入れるぞという方も、来年に繰り越しという方もいるでしょう。私も、細かいところは来年に繰り越し、年末は正月をゆっくり休むためにも山のような原稿を仕上げねば。
掃除は繰り越しても、毎年欠かさないのが餅つきである。愛媛の実家に帰省し、親戚が集まって正月用の餅をつくのが毎年の恒例行事だ。餅米は前日の夜からしっかりと水にかしておかなければいけないうえに、何家族分もとなると20升を越えてくる。餅屋かしら?と思うほどの量!!
当日は、子どもたちも集まって騒がしくなってきて、寝坊した私をだれかが起こしにくるところから始まる。餅米を蒸し、つき、丸めるという工程を経てできあがったつきたてのお餅のおいしさときたら、もっちもちツヤツヤで、心から力がみなぎる。餅は日本人にとって一番のハレの食べ物だと思う。
つくといっても、わが家は杵と臼でぺったんぺったんというのではない。庭にかまどを出してきて薪をくべて餅米を蒸すまでは人力だけれど、そこからは機械にまかせる。子どもの頃から使ってきた派手な色の餅つき機に、蒸した餅米を入れてあとはスイッチを入れるだけ。ぐおんぐおんと音を響かせて、何十年もがんばる餅つき機。
でき上がった餅のかたまりを父が素手で取り出すところはスリリングで子どもの頃からひやひやして見ていた。あれは手の皮が厚くないとできない曲芸だ。昔は祖父の仕事であったが、いつの間にか父に世代交代していた。それを取り分けるのは祖母と母の仕事。これもやっぱり手の皮が厚くないとできないが、ああ、私もついにそれができるようになってしまった。
甥や姪が、私がしてきたように、ちぎられた餅をくるくると丸めていく。子どもが丸めたいびつな形の餅たちが、並んでいくのを見ながら、こうして色んなことが自然に受け継がれていくのだなあと思った。
●地域のお雑煮話は盛り上がる鉄板ネタ。東京の餅が四角いなんて…
半分は普通のうるち米を混ぜてつく「おふく」という餅の文化も地元にはある。ぷつぷつと、餅の中にご飯が混ざっていて、普通のお餅ほど粘り気がない。きっと、餅米100%というのが贅沢品だから編み出された庶民の技なのだろう。35歳を越えたあたりから、普通のお餅よりも「おふく」の方があっさりしてカロリーも控えめでおいしいと思うようになってきた(ダイエット中の方にも絶対いいはず!)。私たちは、日常的食にはおふくを食べて1月2月を過ごす。
地元のお雑煮話というのは盛り上がる鉄板ネタで、ことさら地方人が集まる東京ではこの時期、よく餅の話になる。まず東京にきて、四角い餅がスーパーに並んでいることに驚いた。餅といったらまん丸だと思っていたから。
ちなみに愛媛県のお雑煮は白餅と里芋に白菜、かまぼこ、三つ葉に、すまし汁という多分スタンダードな形だが、お隣の香川県では白味噌汁にあんこ餅を入れるそうだから山を挟むと食文化もがらりと変わっておもしろい。芋餅というと愛媛ではサツマイモを蒸して餅に混ぜ込んだ黄色いお餅のことだが、なんと北海道ではジャガイモを入れるんですね。北海道の方と喋っていて、互いに「えー!」と驚いたことがあった。
●高橋家では当たり前のように食べていた餅レシピ
あと、これは高橋家だけに代々伝わるレシピなんですが…酒粕汁に餅を入れて食べます! 大人になるまで、ほかの家もみんなやっていると思っていたので、誰一人として共感してくれないことにびっくりした。おいしいんです、私は…。ここで紹介してもええのだろうか。という戸惑いもありつつ、してみます。
まず、スーパーなんかに売っている板状の酒粕を買ってきまして、その半分くらいを一晩鍋の中で水につけてふやかします。
翌日それを火にかけながら、こし器の中でよくかき混ぜて溶かします。ポイントは甘酒くらいにとろとろしていること。そこに、お砂糖(うーん。これは好みですが、大さじ3くらいでしょうか)とショウガもたっぷりとすりおろします(これは器にもるときに器に直接すりおろす方がおいしいです)。そして、そこにお餅を投入! お餅は煮すぎると鍋全体がどろどろになってしまうので、食べる量だけレンジやオーブンで温めたものをさっと入れるのがいいでしょう。それをお椀に入れたらはいでき上がり!
これねえ、おいしいんですけどねえ。やっぱここでも共感ゼロですかねえ。ぜひだまされたと思ってやってみてください!
では、皆さまそれぞれの地域でそれぞれのお餅を食べながら、よいお正月をお過ごしください。本年はこれにておしまい。来年もどうぞよろしく。
【高橋久美子さん】
1982年、愛媛県生まれ。チャットモンチーのドラムを経て作家・作詞家として活動する。主な著書にエッセイ集
「いっぴき」(ちくま文庫)、絵本
「赤い金魚と赤いとうがらし」(ミルブックス)など。翻訳絵本
「おかあさんはね」(マイクロマガジン社)でようちえん絵本大賞受賞。新刊の詩画集
「今夜 凶暴だから わたし」(ちいさいミシマ社)が発売予定。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどさまざまなアーティストへの歌詞提供も多数。NHKラジオ第一放送「うたことば」のMCも。サイン入り詩画集の予約やトークイベントなどの情報は公式HP:
んふふのふ