作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回、高橋さんがつづってくれたのは、この時期ならではの味覚、一番の大好物だというカニについてです。

第9回「カニと師走」

暮らしっく
すべての画像を見る(全3枚)

●おいしい魚介類をお手頃に買うべし

先日の夜、仕事帰りに夫がモクズガニを買ってきた。
ネットに入ってなんと6匹も! うげげ、もしゃもしゃと中でまだ動いている。「ほら」とネットに入ったカニを出して見せる夫。夜9時を回って夕飯もすませていた私だが、カニ祭り状態にテンションはマックス!!

「うわうわうわー! モクズガニさまー! こんなにたくさん、残ってたん?」

「魚屋で売れ残ってたんだけど、活きがよくてさ。しかも安かったのよ。東京の人は魚も切り身しか買わないじゃない? だから生きたカニなんて面倒なんじゃない?」

モクズガニ
ゆで上がって真っ赤になった状態のモクズガニ

そういう君も東京の人ではないかと思うけど、確かに夕方スーパーの鮮魚コーナーにいくと頭のついた魚が大量に売れ残っている。私たちは喜んでその魚を買う。なぜか頭のついている1本の魚の方が安い。加工されていない1本の魚の方が活きがいいのになんでみんな買わないんだろう。

7人家族だった四国の実家では魚はいつもでかいのを一匹で買って母が料理してくれて切り身になって食べていた。忙しいと料理するのが少々面倒だが、最近は鮮魚コーナーで3枚におろしてくれるから頼ってみるのも手だ。スタバでグランデがおトクなように、魚は1本買いに越したことはない。

●ふっくら炊き上げたカニ飯が最高

さて、今夜はカニ祭りである。私のいちばん好きな食べ物はカニ。プロフィールにだって、アンケートにだっていつもそう書いてきた。死ぬ前に何を食べたいかと言われたら、カニ! 絶対、カニ! なかでもモクズガニ!!

動くカニの殻を、ギャーギャー言いながらタワシでガシガシ洗う。モクズガニはあの上海蟹の仲間で、私は世界一おいしいカニだと思っている。ハサミのところにりっぱな茶色の毛が生えている小柄だが猛々しいカニである。この時期しか手に入らない季節の味。割ってみると赤く輝く内子入りである。

よし、これだけ内子が入っているならお米といっしょに炊いてカニ飯にしてみよう。内子をスプーンで出して、お米、ぶつ切りにしたカニと、味つけけはお酒としょうゆを少々。STAUB鍋に入れて火力で一気に炊き上げる。

カニ料理
すみません、カニに夢中で雑然とした食卓

20分後、できあがったカニ飯は、ふわふわの内子をまとって、おいしいのなんの。あれ? この味、なにかに似ている。なんだっけ、なんだっけ。そうだ、今年の夏、福岡の離島、壱岐で食べたウニご飯に似ているんだと思った。甘みと濃厚さと自然な塩味、そこに新米が絡み合ってなんてぜいたくな食べ方だろう。6匹いたからこそできる食べ方である。

それから、もちろんゆでガニも3匹ほど!! 注意しないといけないのは、水からゆでること。沸騰した中に入れると足がバラバラになってしまうのでご注意。

二人とも「おいしい!」しか喋ってない。黙々とかきだしては食べる。足の先っぽまで全部全部食べつくす。やっぱり日本酒飲みたいねえ。とっておきのをあけまして、うーわー、沁みます。生きてて良かったと声に出して言っていたと思う。大人だってごほうびがいるのだ。サンタさんからのプレゼントみたいだと思う。ありがとうカニサンタ。私、もうひとっ走りできそうです。