●しこりに気づいて再検査。常につきまとう再発の不安に世界がモノクロに変わる
人それぞれ、がん種それぞれですが、がんサバイバーはずっと再発・転移の不安につきまとわれることが多いです。乳がんは治療を終えて10年後や20年後に現れることもあり、ちょっとした不調も「転移再発じゃないか」とおびえる機会がさらに多いのです。
私は罹患から13年目の45歳で、ふと術側のおっぱいにしこりがあることに気づきました。いやこれは前にも気になって、主治医に縫合痕ですよと言われたやつでは? とも考えたのですが、それからずいぶん時間が経ってるし、最後の経過観察から2年間はなにもしていない。もしかして、もしかして…。
こうなったら乳がんの専門医に診察してもらうしかありません。初発時の主治医は遠く離れた地方にいるため、近隣の乳腺外科を新たに受診してマンモトーム生検(乳房内に針を刺して組織を採取する検査)を受けました。
一応がんサバイバーを看板にライターをする者、初発のときとは違ってかなり知識をつけているし、再発だったらどんな治療が行われるか、どんな経過をたどるかはだいたいわかっている、自分なりの覚悟もできている。それなのに、受診から結果が出るまでの1か月半の苦しさときたら…。
すべての画像を見る(全6枚)目に入る景色はモノトーンに変わり、ものの味がよくわからなくなり、仕事も手につかない。その苦しさは治療や未来への不安というより、初発のときに堪えていたり、自覚できなかった不安や恐怖といったものがフラッシュバックしてきたことが大きかったように思います。
結局、がんではなかったので安堵しましたが、検査を受ける感触や診察室の雰囲気など、新しい不安と過去の記憶が重なり合う苦しさは、サバイバーならではの経験かもしれません。
●60歳を超えるとぐっと増加するがん。サバイバーが新しいがんに罹患することもある
加齢によって増える疾患でいえば、がん自体もそうです。がんという病気は60歳を超えるとぐっと増加します。一度経験したからといって、新しいがんにならないという免責はありません。
私の友人は腹腔内播種を伴うステージⅢCの卵巣がんという厳しいところから生きのびてきたサバイバーです。
明るくポジティブな彼女は、術後に体力が回復してからエアロビクスに打ち込み、旅行や趣味をめいっぱい楽しもうとパートタイムの仕事を始めてその費用を稼ぎ、健康に気を遣いながら活発に、懸命に生活していました。
それが18年目にして転移再発ではなく、初発のステージIAの胃がんと診断されたのです。女性では乳がん、大腸がんに次いで3番目に多いのが胃がんで、50代後半という年齢からすれば「普通に罹患した」ようなものです。
ちょうど新型コロナウイルス感染が拡大し始めた時期でしたが、しばらく思うように食べられなくなるだろうから、グルメなランチをしようと私は彼女を誘って出かけました。
ランチを終えて他愛もないおしゃべりをしながら散歩していたとき、急に彼女が「近くに神社がないかな。おみくじをひきたい」と言い出したのです。わかります。一人では、ひけないのです。
少し歩いて見つけた小さな神社は、偶然にも「がん封じ」の神様を祀っていました。彼女はパッと顔を輝かせ、御利益があるという石を撫でてお参りをし、二人でおみくじをひきました。なんと二人とも大吉!
ほっとしたのか、それから彼女は「私は18年間、優良サバイバーだったんだよ…がんばってきたんだよ」と、たくさんの不安や悲しみを話してくれました。
神社に夫と一緒にお参りしておみくじをひきたかったのに、とりあってもらえなかったこと。すでに大きながんをしたために周りに言いにくいこと、悲しさをわかってもらえないこと。
コロナの感染拡大で無事に手術が受けられるかどうかも不安だし、その前に最後になるかもしれない食事を楽しむ機会が奪われるのではないかと思ったこと…。
がんを経験したサバイバー同士でないと言いにくい話をたくさんして、少しでも彼女の苦しみ、悲しみを聞いてあげることができて私はうれしく思いましたが、サバイバーでない人にはそれが難しいことなのだなと実感しました。
その後、彼女は胃の3分の2を摘出する手術を無事に終えることができました。
わかってくれる人がなかなかいない寂しさを知っているからこそ、分かち合えるだれかがいるのは大きな助けになります。
私もつらいときにはわかってくれる人に話せばいいのだと思えましたし、サバイバーが役に立てるのだと実感した出来事でした。
今後もたくさん話したり、聞いたりしようと思います。