研究に没頭しすぎて、アリ語で寝言を言っていた!
すべての画像を見る(全4枚)もちろん、大学でずっと作業し続けるわけにもいかない。研究だけではなく、教育や大学運営業務もそれなりに忙しい。なので、解析は家でも続けないと終わらない。眠い目をこすりつつ、イヤホンを耳に突っ込んでコリコリとデータシートに数値や、「キャ」とか「ピッ」とかわけのわからないカタカナを記入していく。
すると、だんだん、自分のやっている行為の意味がわからなくなり、意識が飛んでしまうことが多々あった。
そんなとき、「お父さん! 起きて! 寝ちゃダメだよ!」と娘が起こしてくれた。が、僕は意識が混濁し、娘に対して「キュキュキュキュ、キョキョ、キュキュキュ!」と答えてしまったらしい。
「お父さん、お父さん! アリ語をしゃべってるよ!」
その声でハッと現実に引き戻された。危ない危ない。危うくアリの世界に、引きずり込まれるところだった。
結局、計945分の音響データは、A4の記録用集計シート50枚にまでなった。
その後、音響解析ソフトを使って、候補となる音の音素―音のスパイク数やフォルマントと呼ばれる倍音の周波数などを数値化していく。その結果を集計し、統計解析をすることで、たとえば、「音1と音2は統計的に有意に異なる音」だと判別していく。
そうした音素解析をへて、最終的に同じ体サイズで比較すると、少なくとも11の音を識別することに成功した。
アリはなにをしゃべってる?
さて、解析できた11タイプの音は、次のようなシチュエーションで発せられる音だ。
・ピンセットでつまむ キキキキキキキ
・オーツ麦で埋める キキキキキキキキキ
・マメ科の葉っぱを切る ドゥルドゥルドゥルドゥル
・オトギリソウ科の葉っぱを切る キュルキュルキュキュ
・オウムバナ科の花を切る トルルルルルルル
・キノコ畑の上での警戒音 トトトトトトトト
・ゴミ捨て場の近くで特異的な音 ワンワンワン
・入口付近での警戒音 ギュギョギュ
・トレイルで鳴る警戒音 ギュッギュッギュッ
・幼虫の世話 ギュンギュン
・女王アリの警報 ザ!ザ!ザ!
ほかにも、「絶対になにか言っているけれど、確証がもてないままの音」がいくつもある。それらに関しては、随時、データの厚みを増やして解明していくつもりだ。
早くパナマに行きたい。アリたちが交わしている深く複雑な世界は、まだまだ奥深く広がっている。
書籍『アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく』(扶桑社刊)では、“アリ先生”こと村上貴弘さんのユニークな研究の日々がつづられています。先生のイラストによるアリ図鑑と、アリの音声が聞ける特典も収録。知的好奇心を満たす、子どもから大人まで楽しめる科学エッセイです。
