スペインで見た、大人の「ゆるさ」と「強さ」
すべての画像を見る(全5枚)スペインでの暮らしが始まって、まず驚いたのは、60代以上の大人たちがとにかく「自由」だったことでした。
近所のスーパーに行くと、歌いながら買い物するおばあちゃん。ベンチで友人と語っていたと思ったら、「やっぱり帰るわ!」と笑顔で予定変更するおじいちゃん。電車の中でも、だれに遠慮することもなく、大きな声でおしゃべりに夢中なマダムたち。しかも、その服装がまたすてきで、ビビッドな赤や黄色のワンピース。年齢なんて関係なしに、自分の「好き」を着こなしていました。
最初は、どこかいい加減にも見えるその自由さに、戸惑い、「ちゃんしなくていいの…?」なんて、つい心配してしまう自分がいたほどです。
でも、気づいたんです。彼らは「わがまま」ではなく、「自分に正直」なだけ。その場その場を大切にして、気分や体調、心の声に耳を傾けている。そしてそれを、周囲も受け入れていて、「ごめん、気が乗らないの」と言ったとき、なにも責めず、「OK! また今度ね」と、軽やかに返してくれる。
無理をしないこと。断る勇気を持つこと。本音で話せること。それって、子どもには難しくて、大人だからこそできることにも感じてきました。
「自分を律する」だけじゃなく、「自分を緩める」こともできる。そんなスペインの大人たちは、自由で、でもどこか凛として見えました。
大人こそ、自分らしくいる力がある
スペインに来てからの私は、少しずつ、「自分の心」に正直になる練習をしていたのかもしれません。
それは、服装にも表れていました。「年齢的にこれはもう無理かな」と、日本でタンスの奥にしまい込んでいたショートパンツやノースリーブ。でもある日、海辺を堂々と歩くスペインのマダムたちを見て、ふと、手に取ってみたんです。久しぶりに袖をとおした瞬間、体が軽くなって、心まで風とおしがよくなった気がしました。
「こっちが本当の私だったでしょ?」
そんな声が、自分の内側から聞こえたような気さえしました。「だれがなにを言うか」じゃなくて、「私がどう感じるか」。その視点で服を選び、予定を決め、人とつき合うようになると、日々のストレスがなく、スムーズに流れるようになりました。大人になるって、「だれかの期待に応えること」じゃなくて、「自分を丁寧に扱うこと」なのかもしれない。そんなふうに思うようになってから、私はようやく“自分の軸”をもてた気がします。