文筆家の藤岡みなみさんが挑戦したのは、「所持品ゼロの状態から1日1つだけものを増やして100日間生活をする」こと。 シンプルライフとは程遠い生活をしていた藤岡さんは、このチャレンジで暮らしの本質に気づくことができたそう。そのなかでも、「料理」については、少ない調味料で過ごすことで今まで感じたことがないおいしさと出合うことができました。あるものを最大限に生かす食材や調理法について、藤岡さんが語ります。

笑顔で料理をする女性
※画像はイメージです(画像素材:PIXTA)
すべての画像を見る(全3枚)

調味料がないときにはベーコンとサバみそ缶が活躍する

サバ味噌缶

これは、今後の人生でどんなときに活躍する知恵なのかわからない。

初期は調味料がなかったので、料理に味をつけるということができずにいた。そんなときに活躍したのがベーコン。ベーコンの塩気でおかずが次々と成立した。

ゆでるだけでおいしいのはサツマイモとカボチャ。焼くだけでおいしいのはちくわとピーマン。

もっと料理っぽいことがしたくなったらサバみそ缶も楽しい。和にも洋にもアレンジ可能で懐(ふところ)が広い。

味をつけるってとても人間っぽい行為だなと思う。そのままでおいしいものもたくさんあるけれど、やっぱりどうしても物たりなくなってくる。火をとおして食べやすくするのは生きるためにすることで、味をつけておいしくするのは愉快に暮らすためにすることなのだった。調味料ひとつにも、暮らしへの希望と祈りが潜んでいる。

塩と油だけで料理するとめちゃくちゃ勉強になる

料理は好きなほうだ。でも、なんにもわかっていなかった。

コンソメや鶏ガラスープや白だしで味つけをしないと、味もコクも生まれないと思い込んでいた。全然違う。野菜にも肉にも、もともと味は十分あったのだ。常に上からドバーッと強い調味料で塗りつぶしているうちに、素材はのっぺらぼうだと感じるようになってしまっていた。

切り方、材料を入れる順番、火加減、煮込む時間、そういったことで風味も食感もかなり変わってくる。たとえばニンジンとニンジンの皮を一緒に煮たスープは、花束みたいないい香りがした。ニンジンを初めて食べた気分だった。適切な調理によってちゃんと素材の潜在能力を引き出せた料理は、ほんのちょっとの塩のほかにはなにもいらないと思える。

いったんいつもの調味料を封じて、塩と油だけで料理をしてみる。するとおのずと素材本来の風味と出合うことができて、それを引き出すための調理法も学べた。これが料理だったのか。