あの日からこの夏で38年

柏木由紀子さん
柏木由紀子さん
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―― あの日からこの夏で38年になりますね。

柏木:あの日のことは鮮明に覚えています。家の前は報道陣でごった返していて、私たちはこっそり裏から外へ出て、車で事故のあった山へ向かいました。

それからは、どこにいてもカメラに追われました。当時は今よりもマスコミの容赦がなかった時代です。「今のお気持ちは?」と聞かれても、心は空っぽ。

婚約発表のときも結婚式のときもたくさんのマイクを向けられたけれど、私が言いよどめば隣にいる主人がすべてフォローしてくれました。私は主人に寄り添っていればよかった。

そんな私が突然「時の人」になってしまい、取り繕うことも飾ることもできない言葉と表情がテレビカメラを通じて全国に流れていきました。

事故のあとは、どこへ行っても周りの目が気になって、私の姿を見た人が「ほら、九ちゃんの…」とヒソヒソ話しているような気がして、身の置き場がありませんでした。できるだけ目立たないように、ひっそりと過ごし、いつも黒い服を着ていました。

――お嬢さんたちはまだ小学生でしたね。

柏木:長女が11歳、次女が8歳。2人ともショックを受けて精神的に不安定になってしまいました。始業式の日には通学する娘たちを報道陣が取り囲み、本当にかわいそうでした。

今の時代なら、おそらくカウンセリングなどで心のケアをしてもらえるのでしょうが、当時は相談する場もなくて。

何より、私自身が悲しみの底に沈んでしまい、生きているのに精いっぱい。だから、娘たちをどうしてあげればいいのかがわからず、本当に辛かった。

あれから私たち3人は、主人の話題をいっさい口にしなくなりました。テレビのニュースで主人の名前が流れてきても、娘たちはテレビの方へ顔を向けることさえしない。

3人がそれぞれ何事もなかったように普通に暮らそうと必死で努力していました。「パパは今仕事で、ちょっとここにいないだけ」、そんな雰囲気をつくりたかったのです。

当時は、もう笑いあえることなんて永遠にないんじゃないか、とさえ思いました。でも、今はこうして笑って過ごせています。