「リビングダイニングに大きな窓を設けて庭の緑を取り込みたい」「家の内外をつなげて開放的な空間で暮らしたい」。こうした内外一体の家づくりは、戸建て住宅ならではの醍醐味といえるでしょう。ただ、開放的な住まいを計画する際には、外からの視線を、どのようにコントロールするかといった配慮や工夫も必要になります。家の内外をつなげる際に大切なことを解説。建築家の新井崇文さんが、自身の設計した実例を交えて教えてくれました。
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家の内外をつなげる際に大切なこと室内とつながる庭を板塀で囲い、道路からの視線をカットした事例庭をコの字型形状の建物で囲った事例。隣家の高い窓からの視線もカット改修で庭に板塀を設置した事例。リフォームの際に実現するのもありプライバシーと開放性のバランスは、ライフスタイル次第で変化家の内外をつなげる際に大切なこと
庭に面して大きな窓を設ければ、緑はよく見えます。しかしその一方で「道路や隣家からの視線が気になる」という方も多いでしょう。大きな窓があっても、昼間からカーテン閉めっぱなしの生活となってしまっては本末転倒です。
家の内外をつなげ、庭との一体感を楽しむためには、庭の外側で視線をコントロールするのが効果的です。建物の形、板塀、植栽などを遮蔽物(目隠し)として活用し、庭と室内のプライバシーを全体的に確保する。そうすれば、庭と室内がつながり、開放感ある住まいになります。
こうしてプライバシーと開放性を両立させる際には、建物の形や敷地状況に応じた工夫が必要となります。では、参考となる事例を見ていきましょう。
室内とつながる庭を板塀で囲い、道路からの視線をカットした事例
シンプルな四角い形状の建物で、南側に庭を配した事例です。前面道路との間に高さ約2.4mの板塀を配しています。板塀の足元には約50cm高さの隙間を設け、道行く人々からも庭の緑が感じられるよう配慮しています。
板塀でプライバシーが確保された庭は、落ち着いた雰囲気に。普段の暮らしでくつろいだり、お茶や食事を楽しんだりできる空間となっています。ウッドデッキの幅が約2m、植栽帯の幅が約1mで、合計約3m幅の庭となっています。
板塀で道路からの視線はカットされているので、庭はもちろん、室内のプライバシーも確保されました。庭に面する幅広の窓に、日中のカーテンは不要。緑を存分に味わいながら、内外一体の開放感を楽しむことができます。
LDK全体で約20畳の内部空間。そして板塀に囲われた庭が約10畳。空間全体としては、内外合わせて約30畳の広がりが感じられます。カーテンが不要になったことで、まさに家の内外がつながりました。
板塀は、板1枚ごとに1cm程度の隙間をおいて片面張りしてあります。視線を遮りつつも、風と気配は少し通す形状です。写真のように、夜は室内のほうが明るくなるため、板塀の板どうしの小さな隙間から中がほのかに見える感じとなります。
そこで、夜は窓の内側の障子を閉めることもできるように。プライバシーを確保できるしつらえとしています。
庭をコの字型形状の建物で囲った事例。隣家の高い窓からの視線もカット
庭をコの字型形状の建物で囲った事例です。周囲には3階建て等の隣家が建て込んでおり、隣家の高い窓からの視線が気になる状況。
そこで、建物をコの字型形状に配することで、庭のプライバシーを確保しています。また、前面道路側には高さ約2mの板塀を配し、道行く人々からも覗かれないような配慮をしています。
コの字型の建物で3方を囲われた庭は、約4.5m×6mの空間。室内的な囲われ感があり、落ち着いた雰囲気の庭となっています。住まい手はここで食事やバーベキューなども楽しんでいます。
こうして周囲の視線から守られた庭に面したリビングダイニングでは、日中はカーテンなしで開放的に過ごせます。内外一体の広がりがいっぱいの住まいに。
板塀ごしには西の空を見渡すことができます。周囲からの視線はカットしつつ、可能な部分で抜けを確保。プライバシーと開放性のバランスに配慮しています。
改修で庭に板塀を設置した事例。リフォームの際に実現するのもあり
最後は改修の事例を。LDKのある1階のほぼ全域をスケルトン改修(間取り変更を含めた内部全体改修)した事例です。改修前、庭にはDIYで設置した簡易な木製の囲いがありましたが、周囲からの視線を遮るには不十分でした。
そこで、改修ではそれを撤去し、本設の板塀を設置しました。
板塀はウッドデッキ床から高さ1.5m程度。でも、前面道路が低い位置にあるので、これで十分視線をカットでき、上部には空の広がりを感じられます。
この写真は改修前の様子。リビング・ダイニングでは周囲からの視線が気になるため、昼間でもレースのカーテンを閉めた暮らしとなっていました。
一方、改修後は庭の板塀で視線をコントロールできるようになったため、昼間はカーテン不要に。内外一体の広がりを感じつつ、暮らせるようになりました。
プライバシーと開放性のバランスは、ライフスタイル次第で変化
家の内外をつなげた開放的な住まいを実現するため、外からの視線をどのようにコントロールするか。ご覧いただいたのは、あくまで数例です。建物の形や敷地状況が変われば、それに応じた工夫もさまざま。
また、ご紹介した事例は比較的プライバシーを重視したつくりとなっていますが、住まい手の好みによってはもう少し開放的な部分も設けるのも手。近隣とのコミュニケーションを重視したつくりもよいかもしれません。住まい手の暮らしぶりや性格によっても、プライバシーと開放性のバランスは変わってくるものです。
このように「家の内外をつなげる」というテーマは繊細で奥が深いもの。でも、住まい手が考え方や感性に共感できる設計者と一緒に計画を進めることができれば、そんな家づくりもきっと楽しく、実現できることでしょう。