せっかく手に入れた家が、雨漏りするようでは困りもの。瑕疵保証制度ができて、審査機関が厳しく現場チェックしているはずですが、雨漏りのトラブルは絶えないようです。そんな残念なことにならないように、気をつけておきたいポイントを、建築家の古川泰司さんが解説。家づくりで業者や専門家とやり取りをする際の参考に!
すべての画像を見る(全6枚)雨漏り対策にまず考えるべきは、勾配のある屋根と伸びた庇
日本は雨の多い国です。だから昔から、雨漏りをしないことはとても重要なことでした。
たとえば、昔の家は屋根の勾配を急にしています。これは、屋根に降った雨をなるべく早く地面に落とすため。そして、庇を大きく伸ばしているのは、雨から建物の外壁や土台を守るためです。
ところが、最近の住宅事情はこうした家づくりを許してくれません。とくに土地代が高騰している市街地では、狭い土地に家を建てます。土地が狭ければ軒を出す余裕はなし。勾配の急な屋根をつくるには、建物がどうしても高くなるものですが、北側斜線制限(北側のお隣さんに日が当たるように配慮することを、法律で定められている)のせいで、これもできません。
ではどうするか?ここが、われわれ設計者の腕の見せ所。設計は、カッコよいことも大事ですが、雨漏りに関しては、定石とも言える「地味」なルールに従うことが大事です。
まずは冒頭でお話しした「屋根勾配と軒の出」を最初に押さえます。もし「両方とも」が難しいなら、別案で対応を。
カッコよさではなく、雨対策の貢献度を考えて屋根をデザイン
たとえばこちらのケース。市街地の狭小地で、軒先を出す余裕もありませんでした。そこを逆手にとって、屋根と外壁をつなげてしまったのです。
写真で見ておわかりのように屋根と外壁が一体化しています。勾配の急な屋根に降った雨は、そのまま外壁に伝わって地面へ。水には表面張力という性質があって、流れる面に沿って落ちてゆくのです。落ちた先の地面で水はねがしないように砂利を敷いています。雨どい要らずというおまけもついて、問題は一気に解決です。
ここでのポイントは屋根が十分に急勾配であること。そうでないと、大雨の時に表面張力が働かず、道路に雨水が飛んでいってしまうからです。それでは、通行人は大迷惑ですよね。
さて、ちょっとプロっぽい視点で雨漏りについて見ていきましょう。
雨が侵入するのは、いろいろな部位のつなぎ目です。たとえば、窓と外壁とか、建物の外部で素材が変わるところです。
素材が変わるところを「取り合い」と呼びます。ここが、雨の侵入の危険性が高いところ。念入りに防水テープを貼るなどして処理します。この部分は完成してからは確認できません。ですので、工事中に写真を撮っておいてもらうか、ご自分で撮っておくことをおすすめします。トラブルが生じた際に、エビデンスとして写真を使うのです。
雨漏り対策のセオリーに準じたデザインが大事、ではありますが…。一方で、屋根のデザインは、建築家としても自分の個性を出したい部位でもあります。ついつい冒険をして、おもしろい形を考えてしまいたくなるのです。
ただ、ここで断言しておきましょう。古今東西の名建築で、単純におもしろいということだけで、屋根の形や素材の組み合わせを決めたものはひとつもない、ということを。デザインというものは、ぶ厚い歴史に裏づけられたものでないとダメなんですね。
こちらは、アルヴァ・アアルトが設計したセイナヨキのタウンホール。趣向を凝らした形の屋根ですが、雨の道はしっかりと考えられています
中古住宅を購入する際は、屋根裏の雨ジミを必ずチェック
最後に、新築ではなくて中古住宅購入の場合についても少し触れましょう。
中古住宅の診断では、かならず屋根裏を確認します。雨漏りの痕跡がそこにはしっかりと刻まれているからです。屋根材の下地の野地板に、雨のシミがしっかりとついています。
こうした手がかりを購入の判断にしたり、購入後の改修計画に役立てたりしてください。
これからは新築ばかりではなく、中古住宅を直して住むということも大きな選択肢になってくるでしょう。そのときには必ず、屋根裏チェックは忘れないようにしてください。
●教えてくれた人/古川泰司さん
1963年新潟県生まれ。武蔵野美術大学、筑波大学修士課程修了。アトリエフルカワ一級建築士事務所主宰。設計で大切にしていることは「森とつくる いっしょにつくる」。森と木を生かした「森とつながる建築」をつくり住宅医の資格を持ち、中古住宅の診断、耐震改修、断熱改修、生活改善を提案。DIYのサポートも