●太っているから元気そう？見た目で判断しないでほしい
がん患者というと痩せ細って、いかにも具合が悪そうなはず…と思う方は多いでしょうし、サバイバーは、健康にいっそう気をつけた生活を送っているはずだと思われるでしょう。
しかし、実際には薬の副作用で太ってしまったり、命がかかった治療の不安から過食になる人も少なくありません。
また、普通の食事が取れなかったり味覚が変わってしまったりして、お菓子やジャンクフードしか食べられない状態になることもあります。そんなときに「太ってるから大丈夫だよね」「そんなものを食べたら、悪くなるよ」と言われるのは、悪意がないとわかっていても、善意であっても、ひどく傷つきます。
また、治療を終えて時間が経って元気そうにしていても、つらい記憶や傍目には見えないところで不調を抱えていることも多いのです。「こんなに元気なら、あなたのがんは大したことなかったんだね」と言われたことがありますが、これはとても傷つきました。
わかってもらうのは不可能だから、反論も説明もしないことが多いですが、もしサバイバー本人がそう言っていたとしても「大したことなかった」ことではありません。肉体的・精神的に大きな危機を経験して、今ここにいる人たちだと知っていただけたらと思います。
一方で、私の話を聞いたとたんに相手が黙り込んだり急に話をそらされると「驚かせたかな」「よけいな気を遣わせただろうか」と心配になり、言わなきゃよかったと後悔したり、しんどくなることがあります。
そこで、どんな返事だとサバイバーたちがポジティブに思うのかを「うれしかった言葉たち」としてご紹介したいと思います。
●がんサバイバーにとってうれしかった言葉たち
現在、がんサバイバー14年生の私ですが、最近でもうれしい言葉をかけられたり、思いがけず励まされることもあります。
病院に行くとがんとはまったく関係がない診察でもその病歴を説明しなければならないことが多くてつらい思いをすることもあるという話は
が、励まされることもたくさんあります。
自治体の健康診断で心電図をとる時に上半身裸になると、部分切除をした術側のおっぱいが露わになるのですが、それを見た看護師さんが「えっ、これは…？」と驚かれたので「13年前に乳がんで温存手術しまして～」と説明したところ「まあ…若いときにお辛かったでしょう。がんばったのね」と、そっと肩に手を置いてくださいました。
心電図をとっている間、リラックスするどころか涙をこらえるのが大変なほど、うれしい言葉でした。
風邪で声がガラガラになって駆け込んだ近所のクリニックの医師に、大きな病歴は？ と聞かれたので病名と治療の内容を伝えました。
私はホルモン治療と共にUFTという経口の抗がん剤を5年間服用していたのですが、それを話したところ「えっ、5年間飲んでたの？ それはしんどかったでしょう」と言われ、びっくりして「でも、髪が抜けるとか、ああいうガチの抗がん剤じゃないからラクだよって言われてきました」と答えると「いやいや、かなりしんどい薬ですよ。5年間もよくがんばりましたよ」と言われたんです。
「もっとつらい治療をしている人がいるんだから、自分は大したことない」というガチガチな思い込みがスッと溶けて、長い間の緊張がほどけたような気持ちになりました。
病気とはまったく関係のない取材先で雑談をしているときに、話の流れでうっかり「実は乳がんサバイバーでして」と言ったところ、相手の方が「よく生きのびてこられましたね！」と、ガッと手を握りしめて言ってくださったことがありました。
その方は心室細動によって文字通り死の淵をさまよい、なんとか回復して退院するときに医師から「よく生きのびてこられましたね」と言われたことに感動して、病気や事故など大変な経験をした人にはこの言葉をかけるのだ、と教えてくださいました。
長年の友人に「愚痴なんだけど」と前置きして、がん後2度目の更年期のことや最初の治療を思い出してつらいと話したら、「これまで他人事だと思っていたけど、だんだん身近にがんになったり亡くなる人が増えてきたし、自分もなるかもしれないって思うようになった。だから、今やっとあなたのつらさが理解できるようになった」と言われたときには、ありがとうと素直に言うことができました。自分のがんにまつわる経験や感情を話せる人が増えたことが、とてもうれしいと思いました。
こういった「大変な経験をなさったのですね」「おつらかったでしょう」「がんばったんだね」「今、ここにいてくれてうれしい」というような全肯定の言葉をもらえたり、無条件に褒めてもらえると、本当にありがたいと思います。
もし、がんサバイバーと話したり、経験を聞くことになったら、このような言葉を頭の引き出しに入れておいていただけるといいな、と思います。
