2020年の国内がん死亡者数は、約37万9千400人(※国立がん研究センター予測)。日本人の死因第1位です。
「今や、がんと診断された人の半数以上が、その後も10年以上を生きていく時代です」と言うのは、乳がんから生還した「がんサバイバー」のライター・坂元希美さん。ここでは、坂元さんのがん体験と、がんサバイバーについて知っておいてほしいことについて伺いました。
「酒好きだからでしょ」「産まなかったから?」がんの原因探しに傷つくサバイバー
私は33歳の時に乳がんに罹患し、14年を生きのびてきたサバイバーです。乳がんから生き延びて43歳で離婚、退社し、フリーライターとして活動しています。
すべての画像を見る(全5枚)こちらの写真を撮影したのは乳房温存手術から12年経った2018年10月9日、45歳。乳がんから生き延びた体を、血液がん患者の写真家・幡野広志さんに撮影してもらいました。
温存手術を受けたおっぱいの形や、年をとったらどうなるのかなど、これから乳房温存手術を受ける方たちの参考になればと思います。
医学の発展によって、がんは「死病」ではなくなりつつあります。がんと診断された人の半数以上が10年以上を生きていきます。
しかし、罹患すれば命の危機に立たされる病気であることは変わりなく、10年以上生き延びてもさまざまな後遺症や、不調・不便を抱えることも少なくありません。
がんサバイバーの一人として、そうではない方たちに知っていただきたいことが、いくつかあります。まず、つらいと感じること。
●なぜ「○○したからがんになったんでしょ」に傷つくのか
がんという大変な病気になったことを自ら公表する有名人や、著名だからこそ病気のことがメディアに取り上げられてしまうケースがたくさんあります。
有名人が治療や気持ちを発信することは、まだ罹患していない人への理解を進め、同じ病に苦しむ人を励ますことができるので大切なことだし、勇気あることだと思います。
しかし、私のような一般人サバイバーはそんなふうに注目されることもありませんから、「大騒ぎしちゃって」「私はもっとひどかった」「こんな治療は受けられなかった」と嫉妬のような気持ちを抱くこともあります。
また、経過が悪くなる様子などが報道され続けていると「これは、私にもあり得たことだ」「私なんかが生き残ってしまって」というフラッシュバックや、罪悪感にとらわれることもあります。
私は、自分がしんどいなと感じたら情報をシャットアウトするように心がけていますが、世間で大きな話題になっている間は、職場や友人との雑談で、あるいは街中の知らない人が会話しているものさえ耳に入ってきます。
その他愛ない会話の中に出てくる言葉が、「他人事」であるがゆえに残酷なものになっていることが少なくありません。たとえば「○○したから、ああなったんだ」というような、なんの根拠もない原因探しなどです。
うっかり「私もがん、やってるんだよね~」と打ち明けたときには、「タバコ吸ってたからでしょ」「酒好きで飲み過ぎたからでしょ」「仕事でストレスが多かったからでしょ」「子どもを産まなかったからでしょ」「先祖のお墓参りを怠ってたんじゃないの」などなど、どんどん出てきました。
がんの原因は、簡単に特定できるものではありません。確かにリスクになるものはいくつかわかっていますが、そのために全員ががんにはなりませんし、避けようのないこともあります。
中にはがんの原因になるウイルスがわかっているもの(ピロリ菌による胃がん、B型・C型肝炎ウイルスによる肝臓がん、ヒトパピローマウイルス<HPV>による子宮頸がんなど)や、遺伝性腫瘍(アンジェリーナ・ジョリーさんで知られるようになった遺伝性乳がんなど)があり、予防できるものもあります。
しかし、多くのがんはさまざまな原因が絡み合い、遺伝子に異常が起こって発生するものです。だれもが避けられない「年齢を重ねること」すら大きな原因のひとつで、罹患は偶然なのだと考えた方がいいと思います。
ですから、憶測で原因探しをして、過去の行動や生活習慣を責めてもなんの意味もありませんし、患者さんやサバイバーさんを傷つけるだけです。
しかも、がんになった本人が、だれよりもいちばん自分を責めたり後悔していることが多いので、憶測の原因探しや、責めるような言葉を口にしないでほしいな、と思います。
ただ、そのような話をする人たちは「自分はがんになりたくない」「なるはずがないと思いたい」という不安があるのだろうと思います。私がサバイバーと知りながら「あなたは○○したから、がんになったんだよね!」と言ってくる人は「自分は○○してないから、がんになっていない」「これからも、なるはずがない」と思いたいのだろうな、と感じます。
けれども、自分が安心したいために口にした言葉が相手を傷つけることがある、ということは知っておいていただきたいことです。また、不安や恐怖を感じていると自覚できたときには素直にそう伝えてみてください。
がんについてたくさんの情報や知識を持っていたり、いいアドバイスができるサバイバーさんもいます。