うつと言うと、働きざかりの人がなりやすいイメージがあるかもしれません。しかし「うつ専門メンタルコーチ」として、1万人以上のクライアントを指導し、

『1日3分でうつをやめる。』

(扶桑社刊)などの著書もある川本義巳さんは、「子育てがひと段落した専業主婦が、うつ状態になる例も珍しくありません」と話します。

ここでは川本さんが実際に接した、50代主婦の方のケースを教えてもらいました。

50代主婦の方のケース
50代で子育てがひと段落。ストレスもないはずなのに、うつ状態に…

50代で子育てがひと段落。ストレスもないはずなのに、うつ状態に…

うつというと、ストレスが原因と思われることが多いのですが、ある意味ストレスからの開放のような状況や別の要因からでも、うつ状態になる人がいらっしゃいます。

今回はこれまでサポートしてきた例から、50代主婦の方の例をご紹介したいと思います。

●典型的な専業主婦として、家庭をきり盛りしてきた由美さん

西日本在住の由美さんは53歳。自然が豊かな地方都市で暮らしています。地元で生まれ、地元の高校・大学を出て、地元の銀行に就職をしました。

26歳のころ、縁があって同じ地元の男性と出会い結婚。妊娠を機に銀行を退職します。二人の男の子に恵まれ、専業主婦として家庭を守ることになりました。
夫は機械メーカーのエンジニアで出張も多いため、その分、由美さんが子どもたちのこと、そして姑さんのことなど、一人でこなすことがほとんどでした。

とくに子育てに関しては「お父さんがいない間は自分がしっかりしないと」と思い、身の回りのことから学校のこと、塾の送り迎え、部活の応援などフル回転でした。姑さんも悪い人ではなかったのですが、どうしても考え方の違いもあり、由美さんがガマンしてしまうということもよくあったそう。
今思えば疲れとストレスはあったはずですが、当時は「私ががんばらないと」という思いが強く、あまりそういうことを感じるヒマもありませんでした。

●姑を看取り、息子も独立。いざ自由になってみると…

そんな由美さんの生活も、昨年姑さんを看取り、長男に続き、二男が今年春地元の大学を卒業して東京に就職をしたあたりから、少しずつ変化が出始めます。
相変わらずご主人は出張が多いため、ほとんど「一人で家にいる」ことが増えました。

最初のころは「やっとのんびりできる」と喜んでいたのですが、徐々になんともいえない焦りが芽生え始めました。「なにかしなきゃ」と思うのですが、家事以外できることが見当たりません。テレビを観たり、本を読んでいるとなんだか罪悪感に襲われてきます。

次第に由美さんは「自分にはなにができるんだろう? なにがしたいんだろう?」と考え込むようになりました。でも答えが見つかりません。
友達に相談すると「パートでも始めたら?」と言われるのですが、ずっと専業主婦をしてきて、50代になった自分がまた働けるという感覚がありませんでした。そうしているうちに人に相談するのも面倒になってきてしまい、ますます一人で考える時間が増えました。

「若いころはなんでも一人でできてそれなりに楽しかったのに、家族のためだけに人生を使ってしまい、なにもできない人間になってしまった」そう思うとため息と涙が出てきます。そんな日々が続くようになっていきました。

由美さんに起こったことは「空の巣症候群」と呼ばれるものです。こんな状態を防ぐためには、どうしたらいいのでしょうか。