大人よりも「そのまま」を受け入れる子どもたちの柔軟さ

奥山佳恵さん
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――小説には、特別支援学級に入るか、通常学級に入るかで揺れるグレーゾーンの女の子も登場します。美良生さんのときにもそうした葛藤はありましたか?

奥山:小学校は特別支援学級に入れるつもりで手続きもしていたんですけど、インクルーシブ教育(※)を推奨する先生に「子どもは子どものなかで育つから」と背中を押されて、入学直前で通常学級に変更しました。そこでは、ほかの子よりひと回り小さい美良生のために、学校でいちばん小さい机とイスを用意してくれたり、水道の蛇口がうまくひねれないからと、ひとつをレバーに工事してくれたりと、さまざまな対策をしてくださいました。この子がどうしたら通常学級で学校生活を送れるか、先生方が本当に創意工夫してくださって、6年間を無事に過ごすことができました。

こだま:障害があるから、特別支援学級か特別支援学校のどっちかに行かなきゃいけないと思う親御さんは多いんですが、教育委員会や専門機関を交えた「就学相談」によって、サポートを受けながら通常学級に入れる可能性もあります。選択肢が増えるだけで生き方も広がりますよね。

奥山:なによりも驚いたのは、周りの子どもたちの柔軟さです。子どもたちにはそもそも「障がい」という概念がないので、肌の色が違う子も、なんらかの理由で頭髪がない女の子も、字が書けない美良生のことも、「お前はお前のままでいいよ」と、そのままの本人を受け入れてくれるんですよね。

こだま:周りのお友達との交流で、印象的だったことはありますか?

奥山:小学4年生のときだったか、家に遊びに来てくれた子どもたちに美良生がカルタをしたいと言い出して。けんちゃんと同じように、美良生にも少し吃音(きつおん)があって、興奮すると気持ちが先走って言葉が不明瞭になるんですが、あえて札の読み手になってもらいました。すると、いつも一緒に遊んでいる子たちは英語のリスニングのように彼の言葉を聞き取る力がついていて、ちゃんと札が取れるんですよ。取れない子も悔しいから一生懸命聞こうとして、だんだん聞き取れるようになってくる。だれかが教えなくても、遊びのなかで自然と共生しているんです。同じ場所で同じ時間を一緒に過ごしている強みだなと思いましたね。

こだま:私も寄宿舎で働くと決まったときは、障がいをもつ子の輪にどう入っていけばいいのか、どのくらい会話が成立するんだろうかと不安でいっぱいでしたが、いざ入ってみると、人懐っこい子も大人しい子もそれぞれいる。障がいの有無で決めつけていたことを恥ずかしく思いました。クラスに美良生さんのような子がいることで、障がいが特別なことではなくなっていくのは、とても理想的だなと思いました。

※ インクルーシブ教育…障害の有無、国籍、性別などに関わらず、すべての子どもが地域の通常の学校で、互いの個性や多様性を尊重し合いながらともに学ぶ教育システム

できないことは人に頼って補い合うのも「自立」のひとつ

奥山佳恵さんとこだまさん

――小説は「自立」がひとつのテーマになっています。こだまさんは職員時代、日常の動作にどこまで手を貸すか、見守るべきか悩んだそうですね。

こだま:寄宿舎は一日のスケジュールが決まっているので、時間になっても動けていない子がいると、つい手を貸したくなっちゃうんです。それがいちばんラクなんですが、全部やってあげてしまうと、将来的にその子が自立に向かう芽を摘んでしまうことにもなるので、悩みどころでした。

奥山:わかります。うちの子も、中学生になって制服のシャツのボタンを1個ずつ留めるのにすごく時間がかかって、「遅刻しちゃう!」っていつも歯がゆい思いをしていました。本当に時間と余裕との戦いですよね。

こだま:奥山さんは、美良生さんの自立を促すために心がけていることはありますか?

奥山:以前の私は「自分のことを自分で全部できるようになるのが自立だ」と思っていたんですけど、最近は「頼れる支援先をたくさんつくるのも自立のひとつだ」と思うようになりました。できないことはだれかの力を借りてもいいんだよなって。美良生は小学校低学年の頃、自力で傘を閉じることがどうしてもできなくて、そのとき私が教えたのは周りの人に「お願いします」と「ありがとう」を言う練習。それでいやな顔をする人って少なくて、案外みんな喜んで傘をたたんでくれるんですよね。私、この2つの言葉があれば、世の中は渡っていけるんじゃないかと思いました(笑)。

こだま:私も持病で指が曲がっていて、傘をたたんだり、ペットボトルのフタを開けたりするのがすごく苦手なので、気持ちはよくわかります。そんなとき、「これやってください」と見ず知らずの人にも言える社会の方が望ましいし、言ってもいいんだという心構えが自分のなかにあるだけでもラクになりますよね。

奥山:そうなんです。私自身もじつは料理や片付けがすごく苦手なので、今はそれをオープンにしてお友達に手伝ってもらっています。その代わり、学校の広報の仕事では絵を描いたりして、自分にできることを提供する。できないことを悪として、弱さを隠すのではなく、それぞれが得意なことを生かして、できないことをできる人が補い合えばいい。そのためにも私は、美良生にはどんどん表に出ていってもらって、みんなに彼のことを知ってもらいたいんです。障がいがあると迷惑をかけてしまうから…と社会から隠れたり、定型発達の人と分かれて暮らすのではなく、最初から混ぜこぜになって積極的に関わり合った方が、豊かな社会になると思うんですよね。

けんちゃん書影

けんちゃん

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