数多くの女性誌や書籍の執筆を手がける、ライターの一田憲子さん(60代)。歳を重ねるなかで気がついた、人生の後半を楽しむヒントを紹介します。今回は、「これじゃなきゃ!」を手放し、暮らしが豊かになったもの選びについてです。

※ この記事は『最後の答えは、きっと暮らしの中にある。』(内外出版社刊)に掲載された内容を一部抜粋・再編集して作成しています

リビングに一田さんが座っている
一田憲子さん(60代)、歳を重ねて変化した「もの選びの基準」とは?
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「これじゃなきゃ」を手放せば人は自由になれる

バターやみりん、オリーブオイル。取材で料理家さんや暮らしの達人に上質な調味料を教えてもらい、それを少しずつ買いそろえて、自宅で使ってみる。そんなことが楽しくてたまらない時代がありました。

憧れの人と同じ調味料を使ったら、あの人と同じ時間を体験でき、あの人のような暮らし方を手に入れることができるかも。でも…。どれも高価で、値段を見て見ぬふりをしないと買えません。若い頃の私は、それらを、ちょっと無理して買うことで、その人になれる気がしていたのでしょう。

50代後半頃から、老後の資金の問題が目前にせまり、家計管理なんて面倒で見向きもしなかったのに、考えざるを得なくなりました。収入は少しずつ右肩下がりに減っていくのだから、生活をひと回り小さくしなくてはいけません。ちょうど同時期に、「もう、いいか」と思うようにもなりました。そこまで上質じゃなくたって、そこそこでいいんじゃない? すてきな人の真似はおしまいにしていいんじゃない?

調味料ボトル
スーパーから持ち帰るときに、重たくないようビンではなくプラスチックボトルをチョイス。酒、みりんは「コープ」オリジナルを。油は酸化しにくいという米油に

そこで、ずっと使い続けてきた調味料を変えてみることに。バターは「よつ葉バター」、みりんは「コープ」オリジナル、オリーブオイルは「カルディ」でその時期安売りになっているものに。私程度の料理の腕なら、味にはほとんど差がないことがわかってきました。

きっと私は有名な料理家さんから「これ、おいしいのよ」と言われると、疑いなく「そうなんだ!」と思い込んでいたのです。高価な調味料は、かっこいいラベルのビン入りで、それをエッチラオッチラ重たい思いをしながら買って帰る行為に満たされていたのかも。今、「コープ」で軽いプラスチックボトル入りのみりんを買って、いつもの大根の煮物をつくっても、いつものとおりおいしい…。

こうやって、今まで得てきた知識を、「本当にそうだっけ?」と再確認するお年頃になったのかなあと思います。自分の中にある情報を、ひとつずつ指差し確認し、自分にとって「いい、悪い」「いる、いらない」を判断していく。そんな「自分の地図の整理」がなんだかおもしろくて、新たな生活道具の選び直しをしている最中です。

テニスラケットとテニスボール
大人になって通い始めたのは硬式テニス。学生時代にやっていたのは軟式テニスだったため、うまくいかないことが悔しくて火がついてしまいました

NHKの『スイッチインタビュー』という番組が好きで、ときどき見ています。最近おもしろかったのが、引退した競泳選手の入江陵介さんと、Mrs. GREEN APPLEのボーカル大森元貴さんの対談。入江さんはこう語っていらっしゃいました。「なるべく抵抗の少ない泳ぎ。『ラクに速く泳ぐ』を追求してきたら、今の泳ぎになりました」

わあ、テニスと同じだなあと思いました。テニスも余計な動きをしないことが大事。手首でコントロールしようとしないことで、肩甲骨が動き、ストロークが安定すると思います。

これって、人生でも同じなんじゃなかろうか? と思うのです。がんばってなんとかしようとするのではなく、力を抜いて、ムダをなくし、自然体でできることを見つける…。

若い頃は、いろいろ真似して背伸びをすることにワクワクしたけれど、ひととおりそれを経験したあとは、少しずつ「ラクになる」方向へ降りていってもいいのかも。「これじゃなきゃ」を手放せば、暮らしがどんどん自由になる気がします。

「すてき」でなくても、上質な調味料じゃなくても、そこそこの素材でおいしくごはんが食べられればそれで満足! 幸せの地図を自分の手で描けるようになれば、伸びやかなラインを引くことができそう。

お手頃調味料で、さあ、今日はなにをつくりましょうか?