「ものを捨てられない性格で、記憶の泉に漂っている方が心地よいのです」。そう話すのは、絵本編集者として活躍してきたほか、多数の著書ももつ末盛千枝子さん(84歳)。山積みの本や絵ハガキ、家族からもらったオモチャが棚などを埋め尽くしても、不思議と快適…。末盛さん流の「ものを愛おしむ」過ごし方を紹介します。
※ この記事は『今だからわかること 84歳になって』(KADOKAWA刊)を一部抜粋・再構成して作成しています。
すべての画像を見る(全6枚)ものと自分が歩んできた人生を愛おしむ
ものには、それぞれにまつわる思い出があります。この家は、あらゆるもので埋まっているので、その分だけ、思い出も残されていると言えるでしょう。それは、好きも嫌いもなくて、ただ自分の歩んできたこれまでを、そのまま慈しむとか、愛おしむということなのかもしれません。
飾り棚に置いていた小石のひとつからでも、何十年も忘れていたような人のことを思い出すこともあるし、そこから、何十年も前から読みたいと思っていた本を読み始めることもあるし、その本を読みたいと思ったきっかけがなんだったのかということを思い出すこともあります。連鎖していくのです。それは、とても不思議なことです。
●木っ端を使ったオモチャも大切に保管
弟の舟越桂(彫刻家)は、彫刻作品とは別に、制作の過程で生まれる木っ端を使って、子どもたちのためにオモチャをつくりました。それがわが家にもあって、玄関を入った正面の棚の上に並べています。3つの「木っ端の家」と「木っ端の少年」。いつだったか、クリスマス・プレゼントとしてもらったものでしたが、3つのうちの、どれが誰の家なのかはもう定かではありません。好きなのを選んでと言われたのでしょう。3つ一緒に並べると、どこか小さな町の一角のようです。
少年の人形は長男・武彦で、裏に彼の誕生日が書いてあります。もうひとつあった二男・春彦の人形は今は彼の手元に。当時、私は最初の夫・末盛を亡くしたあとで、生きるのに必死でした。桂は、父を亡くした甥っ子たちを不憫に感じていたのでしょう。木っ端の家と人形は、そのような特別な思いやりが込められているように感じます。


