絵本編集者として活躍してきた末盛千枝子さん(84歳)は、東京から移住し、現在は岩手でひとり暮らし中。再婚した夫や長男が亡くなり、運転免許も返納した今は「家の過ごし方」を一層大切にしているそうです。ゆったりとした朝食、リビングから眺める岩手山、夜更けのメールなど、心地よい日課を紹介します。
※ この記事は『今だからわかること 84歳になって』(KADOKAWA刊)を一部抜粋・再構成して作成しています。
すべての画像を見る(全2枚)大切にしている時間
12年前に、再婚した夫・古田暁が、3年前に長男・武彦が亡くなって、ひとりの時間が訪れました。不思議に寂しいという感じはあまりありません。当時は、病院へ行ったり、日常の世話もあったり、車で1時間ほどの盛岡へ出向くことも多くて忙しくしていましたが、時間が経ってこうなってみると、不思議なことになにが大きく変わったという実感もないのです。
ただ、こんなこと、もう心配する必要はないんだわということはあるのです。たとえば、テレビやYouTubeの音量。大きな音を出すと、彼らにうるさいんじゃないかと気にしていたけれど、今はもう、だれはばかることもありません。
私は、なまけ者で、宵(よい)っぱりの朝寝坊です。車の免許も返納した今は外出も自由にできないので、ほとんど家で過ごします。気ままなもので、日課で決めているものはとくになく、朝は遅めの朝食をとって、日中はリビングで岩手山と空を眺めているとき以外は、習慣的に身についたニュースを見たり、新聞をひとしきり読んだりして、過ごしています。もちろん、週に3回はヘルパーさんたちも来ますし、友人知人も訪ねてきます。
●夕暮れどきの風景を楽しむ
いちばん好きな時間帯は、夕暮れどきです。ときどき刻々と変わっていく景色を眺めながら、考えるでもなく考えたりするひとときです。気づくと陽はすっかり落ちていて、山も野原も田んぼも人家もすべてが沈み込んだ闇のなかに、ぽつんぽつんと街灯だけが浮かんでいます。それは、まるで夜の海のよう。ひとりになって、風景をこんなふうに感じられるのだとしたら、そう簡単に、この楽しい時間を手放すわけにはいきませんね。
