じつは交通事故よりも多いといわれる、風呂場での死亡事故。安全に入浴するにはどうすればよいでしょうか。ここでは、温泉療法専門医の早坂信哉先生が、血圧が急低下する「ヒートショック」と冬でも起こる「浴室内熱中症」の注意点を解説します。また、転倒や体調不良を防ぐための安全なお風呂の上がり方もあわせて紹介します。
※ この記事は『入浴 それは、世界一簡単な健康習慣』(アスコム刊)より一部抜粋、再構成の上作成しております。
すべての画像を見る(全4枚)「ヒートショック」を防ぐには
入浴中の事故や体調不良は、次のうち、いつがいちばん多いと思いますか?
A:浴室に入ったとき
B:体を洗っているとき
C:湯船につかっているとき
D:湯船から出るとき
湯船につかっているとき、と答える方が多いと思いますが、実際には入浴後の発症も多く、「D:湯船から出るとき」が多いと考えられます。
湯船の中では、温熱作用で血管が拡張しているものの、水圧によって血管がほどよく圧迫されています。ところが、急に立ち上がるとその圧力が一気に解放され、血管が拡張して血圧が急激に低下します。
「起立性低血圧」と呼ばれる状態で、脳への血流が不足し、立ちくらみや意識消失、それにともなう転倒事故につながることがあります。
湯船から出る瞬間に起こる、この血圧の急激な変化は、「ヒートショック」と呼ばれる状態の1つです。
●ヒートショックには2種類ある
ヒートショックには、2つのタイプがあると私は考えています。
1つは「山型ヒートショック」。冬場など、寒い脱衣所から熱い湯船に入ることで血圧が急上昇し、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こすタイプです。とくに高齢の方や、高血圧の方に多く見られます。
近年、「ヒートショックに注意」ということを見聞きすることが増えたと思いますが、多くの場合はこの山型ヒートショックの話をしています。ですから、みなさんがヒートショックと聞いてイメージするのは、こちらのタイプでしょう。
もう1つは「谷型ヒートショック」。湯船から出るときに、血圧が一気に下がることで起こるタイプです。
先に挙げたように、立ちくらみなどを引き起こします。こちらは年齢や持病の有無にかかわらず、だれにでも起こりえます。谷型ヒートショックによる血圧の急激な低下は、「湯船」から出るときの動作で防げます。
なお、谷型ヒートショックの大きなリスク要因に、「脱水」があります。入浴中に汗をかくと血液の粘度が高まり、脳への血流が減少しやすくなります。すると、立ちくらみや意識障害を引き起こしやすくなるのです。予防のため、入浴前にコップ1杯の水分を飲んでおきましょう。
●風呂場での死亡を避ける「お風呂の上がり方」
事故や体調不良がいちばん起こりやすいのは、「湯船から出るとき」。だからこそ、お風呂の入り方と同じくらい、お風呂の上がり方も大切にしてほしいと思います。大前提は「いきなり立ち上がらない」です。
1:湯船のふちや手すりにつかまり、体を起こして数秒待ちます。これは、血圧の急降下(谷型ヒートショック)を防ぐためです。
2:軽くおじぎをするように頭を低くして、前かがみになります。こうすることで、脳の血流を保ちます。
3:最後は、ゆっくり立ち上がって湯船から出ます。場合によっては、いったん湯船のふちに腰かけてひと呼吸ついてから2段階で立ち上がるようにします。


