「介護未満」。それは、まだ本格的には介護が必要ではないものの、記憶力や体力が落ちてきた状態のこと。今回は、「介護未満」の父親の介護で奮闘するジェーン・スーさんと、親と距離をとる「親不孝介護」を提唱する、介護のプロの川内潤さんに、親の介護の向き合い方について語ってもらいました。

「今日、死んでなければOK」というスタンスで介護はラクになる
「今日、死んでなければOK」というスタンスで介護はラクになる

「がんばる」を目標にしない。がんばるほど後悔が増える

――親が介護未満になってから、陥りがちな失敗を教えてください。

川内潤:自分の不安を解消するためのケアになってしまうことですね。それに気づかず、「親が言うこと聞いてくれない!」と不満を抱くのがいちばんの不幸。介護は自分が安心するためにするものではありません。

ジェーン・スー:おっしゃるとおりだと身にしみて思います。私は30代半ばで父親との軋轢(あつれき)を経験しているので、父と私は別の人間で、すべてにおいて信用できるわけではないというのが明確にあった。それが功を奏しました。

川内潤:ケアをがんばることを目標達成の指標にしてはいけません。自分の生活を大事にしたうえで、親のためになにができるかを考える。介護の場合、がんばった人ほど後悔が強くなるので、「後悔したくないから、がんばろう」は理論崩壊しています。

ジェーン・スー:後悔するのは接点があったからだと思います。私は末期がんの母を看取ったので、母に対する後悔が多い。でも、それは仕方がない。「後悔するほどの深い関わりをもててよかった」という解釈もできるので。

川内潤:なるほど、それはすごい。

ジェーン・スー:でも、父と接点を増やすと、いがみ合いになって、互いに刺し違えることになるのは間違いない(笑)。だから、できるだけだれかを介在させるようにしています。他者の介在で解決できることは相当ありますよね。

川内潤:外部に頼ることは重要ですし、われわれ専門職も「自分の親を直接介護するな」と習います。

ジェーン・スー:優しくなれないことや、自分の気持ちが削られる作業は、第三者に渡すのがおすすめです。

川内潤:余裕がなかったら優しくできません。「母親から毎日同じことを何度も言われて、つい怒鳴ってしまう」と苦しむ方がいます。その人が未熟なわけではなく、毎日聞かなくてはならない環境がよくないのです。

ジェーン・スー:本当にそう思います。父のところに来てくれているヘルパーさんは本当に最高で。父の話をめちゃくちゃ聞いてくれるんです。ヘルパーさんに辞められると、マジでやばい。