「サラリーマンにはなれない」と確信
すべての画像を見る(全7枚)あと、この頃の記憶でよく覚えているのは、件の住宅地に建設されたマンションの隅でドロバチの巣を見つけたときのことだ。
『ファーブル昆虫記』のなかにもドロバチが登場するが、その巣づくりの描写には本当に引き込まれた。
ドロバチの仲間は腹部にある針で青虫やウジ虫を刺して毒を注入し、麻痺させる。動けないようにするが、死なせない。それによって、幼虫が成長とともにゆっくりと食べることのできる理想的な“保存食”となる。
ドロバチは、その捕まえた食料である昆虫類を巣に詰め込んで卵を産みつけるのだが、種によってその「建築様式」はかなり異なる。
土を丸く盛り上げて、その先端に同じく丸い煙突をつけるのがトックリバチ。カタツムリの殻を巣に再利用するマイマイツツハナバチ(ミツバチの仲間)なんていうものもいる。
はてさて、僕の前にいるドロバチはどのタイプだろうか。
「見ることは知ること」とはファーブルの教えだ。ファーブルになったつもりで、毎日毎日2時間も3時間も、土を運んで巣づくりをするハチの様子を観察し続けた。
親には心配され、呆れられもしたが、飽きることはなかったし、許されるならずっと見ていたかった。振り返って考えると、この頃から、「社会性」のある生き物に魅せられていたのだと思う。
十数年後「アリの研究者」の道へと進むことになるわけだが、まだそれは先の話。ただ、すでに、「普通のサラリーマンとしては生きていけないだろう」という思いは揺るがないものになっていた。
書籍『アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく』(扶桑社刊)では、 “アリ先生”こと村上貴弘さんのユニークな研究の日々がつづられています。先生のイラストによるアリ図鑑と、アリの音声が聞ける特典も収録。知的好奇心を満たす、子どもから大人まで楽しめる科学エッセイです。
