化石採集を楽しんだ小学生時代
すべての画像を見る(全7枚)かつて草はらだった場所には、同じようなつくりの建売住宅が数十軒も建った。その間に、僕たちも少し大きくなった。僕は年下の子たちを連れて、わずかに残された線路の法面緑地に生き物を求めた。
法面緑地は厳密には立ち入り禁止なのだが、昭和の頃はそこですら遊び場だった。だれにも邪魔されずに遊ぼうと思っていたのに、新しい住民たちに通報され、警察の人に追いかけられた。
「もうここはダメだ」
だれももう自然のなかに出てこなくなった。遠くの川や森にまで行って遊ぶのは、僕だけになった。
その頃は広く自然科学全般に興味があって(今も変わらないけれど)、星空観察も好きだったし、化石にも興味があった。自転車というひとりで自由に移動できる乗り物を手に入れたこともあって、化石採集を楽しむようになった。
●500万年前の動物の化石を発掘しに渓谷通い
仙台には「八木山」という標高100メートル前後の丘陵がある。動物園や遊園地がある仙台市民憩いの場だ。八木山は仙台城址がある青葉山と谷をはさんで向かい合わせに位置し、「八木山橋」がそのふたつの山を結んでいた。
その八木山橋付近にある「竜の口渓谷」は500万年前の海に堆積した地層で、貝類などの化石がたくさん出る。僕はそこにひとりでよく化石発掘に出かけていた(現在、落石の危険があり、渓谷への立ち入りは禁止されている)。
渓谷には川が削った地層の断片である石が転がっている。そのなかから化石がよく入っている独特の割れ方をする堆積岩を探し、「よしよし」と思いながらカナヅチで割る。
調べてみると、この地層からはクジラやゾウ、ウマなどの化石も出ているという。
500万年前に生きていた動物の痕跡を自分の手で見つけられるかも! そんな期待を胸に石をカンカンと割っていく。目ぼしい石を探してはカンカン。ダメだと思ったら次の石を手にしてカンカン、だれもいない渓谷にカナヅチの音が響く。
自分がやりたい、知りたいと思ったことに対しては、どんな地味な作業も苦にならないのはこの頃からかもしれない。大発見とはいかなかったが、二枚貝の化石を見つけたときの喜びは、今でもありありと覚えている。