家族の幸せな思い出がひとつ増えた
すべての画像を見る(全4枚)父の歓声がスタートの合図になったのか、みんな好きなネタを頼んでくれるようになりました。祖母と母は目をキラキラさせながら、大好きなイクラを3貫ずつ食べました。父は相変わらずシメサバを何貫も食べます。本当に好きだというのもあったみたいですが、あとから聞くと、息子に無駄なお金を使わせたくないという気持ちでずっと100円のお皿を頼んでいたようです。
僕と兄はサーモンやハンバーグすしのような、子どもが好むネタばかり食べました。当時、僕たちはおすしを食べ慣れていなかったこともあって、味覚が追いついていなかったんだと思います(今はどのネタもおいしくいただけるようになっています。とくに好きなのはのどぐろ)。
父は「おまえらいっちょまえな顔して、まだまだ子どもだなあ」と笑っていました。こうして、僕は初めての親孝行を無事に終えました。父も母も祖母もたくさんの「おいしい」と「ありがとう」をくれました。お会計は1万5,000円でした。
あの日、僕はたしかに達成感を得ました。ただし、学生の僕が両親から愛情や世話を“受ける側”なのは変わらないし、そもそも僕を育ててくれた十数年のことを考えたら、1万5000円なんてわずかな額でしかなくて。だから、親が自分たちにお金をかけてたくさんの経験をさせてくれたように、僕も自分のお金を使って父や母にたくさんの思い出をつくって欲しい。もっともっと親孝行をしたい。
1万5000円で家族の幸せな思い出がひとつ増えたあの日を境に、僕は家族のためにお金を使うことを惜しいと思わなくなりました。ただし、そもそも親孝行をするのに金額の大小は関係ないというのを忘れてはいません。すてきな思い出はお金では測れないものだから。