聴力に問題がないにもかかわらず、脳の特性や心因性によって話が聞き取ることができない「聞き取り困難症」、通称“LiD”。昨今はニュースやドラマ、マンガなどで取り上げられることが増えてきましたが、まだまだ一般的には広まっていない状況です。『聞いてるつもりなのに「話聞いてた?」と言われたら読む本』(飛鳥新書刊)で、LiDについての最新研究や困りごとの対策方法などを書いた、大阪公立大学の耳鼻科医・阪本浩一先生に、子どものLiDのサインについて教えてもらいました。
すべての画像を見る(全2枚)「うちの子、ちゃんと話を聞いているのかな?」と感じたら…
LiDの症状は、生まれつきの脳の特性に起因するため、子どもの頃から見られるそうです。しかし、症状が軽度な場合は見過ごされるケースがほとんどです。
「そもそも脳や体の機能が成長途中である子どもは『聞き取る力』が十分ではありません。そのため、気になる症状があっても、必ずしもLiDであるとは限りません。8歳~思春期の子どもの場合、心因的な影響で聞き取る力が低下する『機能性難聴(心因性難聴)』も多いです。ただ、子どもは本人が聞き取れてない自覚がないこと。
また、聴力検査で異常を示さないので、LiDの発見は遅れがちです。小学生になっても『うちの子、話、聞いているのかな?』と心配になるほど目立つ症状があれば、専門家に相談をするなど、適切な対応を始めていきましょう。子どもの発達を調べる『WISC(ウィスク)』は、言葉の理解が進んだ5歳から、児童精神科、児童相談所等で受けることができます」
ほかにも子どもの「WISC」とは別に、聴覚研究者・フィッシャーが作成した、児童(7~13歳)の様子を教師がチェックするリストもあるそうです。
「お子さんがLiDかもしれないと思う方は、こちらを調べてご確認いただくのもよいでしょう。ただしフィッシャーの作成したチェックリストは難聴のチェックも混じっているので、自己判断はせず、あくまで参考としていただくのがよいかもしれません」
小学2~3年生くらいまで舌たらずの場合は、LiDの可能性も
音をつくる器官(唇や口腔内、聴覚)の構造や動きに問題があり、うまく発音できないことを「構音障害」といいます。
「子どもは舌たらずでしゃべりますが、これは構音障害のひとつ。口の動きや聴覚が未熟だとSがTに変換されやすく『さ(SA)』→『た(TA)』になるため『さい→たい』、『ハサミ→ハタミ』などの発音になることがあります。舌足らずのような構音障害は、訓練、および成長や経験により次第に治ってくるのが一般的です。もし、小学校2~3年生になっても舌たらずの場合は、ほかの原因が考えられるかもしれません」
発音の問題が聞こえの問題にどこまで関与しているか、見極めは非常に難しいと阪本先生は話します。
「子どもに関してはLiDの可能性を含めて注意深く観察するようにしましょう」
「成長して解決したな」と思ったときほど要注意
「低学年の子どもは、自分の聞き取り能力に対して疑問をもちません。そこで、いつ頃から子どもの聞こえの自覚が芽生えるのか、小学生~中学生の幅広い年代の子とその親に、聞こえにくさについて調査をしてみました。調査の結果、子どもは学年が上がるにつれ聞こえにくさの自覚が増し、逆に親は減る、という乖離が見られました」
これは、思春期以降は子どもの自我が目覚めること、親は子と一緒の時間が減るのが理由のようです。しかし、高学年になるほど子どもが聞こえづらさを訴えても、親は子どもの聞こえについて「子どもが思い悩むほどひどいものだと自覚していなかった」と考えることもわかっています。
「子どもが聞こえにくいと訴える場合は、親は大げさだと思わず、困りごとについて具体的に話を聞くなど、子どもの声に耳を傾けてあげましょう」