●「背中」ブームはテレビ番組でも取り上げられ…

このブームはテレビ番組においても取り上げられた。そのなかで、実際に背中を撮った若者が匿名を条件にインタビューを受けている一幕があった。カメラはインタビューに答える彼を後ろから撮影していた。そう、背中だ。

インタビューでは、初老のキャスターが質問を投げかけていたが、最後まで彼の行動を理解できていないようだった。

──なぜ背中の撮影に興味を持ったのです?

一度も自分の背中をちゃんと見たことがない事実に気づいたんです。顔は毎日見ますよね。しかし、背中はどうですか? 自分の身体の一部なのに一度も見ずに死ぬのかもしれない。そう考えてぞっとしました。

──あなただけでなく、ほかの人も背中を撮っていることはどう思われますか?

よいことだと思います。自分だけでなく、私たちは知人の背中もちゃんと見たことがありませんよね。他人の背中を見ることは、大いなる発見です。

──自分で背中を撮ることは難しいですよね。どうやっているんですか?

難しいですが、不可能ではありません。友達同士で背中を撮り合う人もいますよ。

──私なら恥ずかしくて無理ですね(笑)。

キャスターの顔はあざけっているようにも見えて、それが原因で批判も殺到した。彼が思うよりも、人々はもっとカジュアルに背中を撮っているのだ。

友人同士で背中を撮り合う──これは一般的な休日の過ごし方になった。

街を歩いていれば、お互いの背中を撮り合っているグループに必ず出くわす。彼らは楽しそうに相手の背中にカメラを向けている。それは秘密を少しだけ共有するような行為だ。友達の知らなかった一面に触れて、彼らはより仲よくなる。「背中」にはそんな魔法があるようだ。

さきほどのテレビ番組には続きがある。若者へのインタビューのあとに、背中の写真を集めることを趣味にしている女性が出てくる。彼女はいろんな人から背中の写真を譲り受けているのだという。

「背中の博物館をつくりたいんです。私たちはたしかに生きていて、こんな背中だった、そういうことを記録するような」

いつかあなたの背中が博物館に展示される日がくるのかもしれない。

【編集部より】

友達と背中を撮影しあって、コミュニケーションをつづかせようってことでしょうか。
何回もできることじゃないですし、相手と予定を合わせづらいから疎遠になるのでは? 背中の写真だけで、何度もコミュニケーションができる気がしません!

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