●たとえ忘れたとしても、本当に大切なこと

「ごめんなさい、ここはど忘れしたことを思い出せるバーじゃないんです」

マスターが言う。

「えっ…どういうことですか」
「ここはど忘れたしたひとが集まるバーなんです」

そう言いながら、マスターはビスケットさんのまえにグラスを置いた。

「さぁ、できました。あなたにおすすめのカクテルです」
「ありがとうございます。マスター、このカクテルの名前は…?」
「忘れました」

当然のようにマスターが言うと、ビスケットさんはグラスに口をつける。

「おいしい。すごくおいしい!」

マスターはビスケットさんの嬉しそうな顔を見て微笑んだ。

「名前を忘れていても、おいしいものはおいしいんです」

そのことばに、ビスケットさんははっとした。そうだ、たとえ忘れたとしても、そこにある本質は変わらないのだ。

「なんだか目が覚めました。ありがとうございます」

ビスケットさんが店を出ると、ポケットに入っているスマホが振動した。取り出してみると、友人からメッセージがきている。それに返信をし、ほかにもきていた通知をひととおり見ると、スマホをポケットにしまった。

ふと振り返ってみると、そこにはあき地があるだけで、ほかにはなにもなかった。

「あれ、なんでここにきたんだっけ?」

ビスケットさんは首をかしげた。

【編集部より】

最後のはど忘れというより、怪奇現象じゃないでしょうか。「ど忘れを気にしない」のも大事ですが、気になってしまうから悩んでしまうんですよね。ふせんやメモ帳を活用するなど、忘れにくくする方法はあるので、そういったものを使ってみるのもよいかもしれませんね。

「ふしぎなお悩み相談室」は、毎月第2金曜日に更新予定! あなたも、手紙を出してみませんか? その相談がすてきなショートストーリーになって返ってきます。

こちらのふしぎなお悩み相談室 相談窓口までご応募ください。