●犬にとって初めての吊り橋

吊り橋
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想像の三倍頑丈やった。見るからに安定感があって、吊り橋ビギナーにやさしい。丸太が連なったしっかりした土台に隙間なく木の板が敷かれている。左右に太いワイヤーも通っている。「とはいえ無理しやんでええからな」犬と自分に言う。

犬はいつも初めての場所に来たらまずにおいを嗅ぐ。まわりの地面や段差に鼻を凝らしていた犬がふと顔を上げて吊り橋をジ、と見る。「無理せんとき」と私が言い終わるよりも先になんと犬は微塵のためらいもなく吊り橋を渡り始めたのだ! 一歩また一歩、いとも易々と歩みを進める!

犬

私は内心「え゛!?」と慌てながら犬のあとを追う。心の声を発さないのは犬が初めて吊り橋を渡っているところに水を差したくないから。

つり橋と犬

正直、犬は怯むと思った。もしかして私は過保護なのか。私は犬が激しく咆哮(ほうこう)を上げる姿を見ようとも、いつまでも赤ちゃんのようにか弱い存在だと思っているところがある。それはフィルターがかかっているのではないか。犬は私が心配するよりずっとたくましいのかもしれない。

犬と神社

吊り橋を渡り終えたら本当に目の前に皆瀬神社が鎮座していた。澄んだ空気に差し込む光が美しく、何本もの立派な御神木に囲まれて荘厳な神社。礼拝をして、静かな時間を過ごす。

犬と吊り橋

そして犬は再び吊り橋を渡って戻ろうとする。行き道では冷静さを欠いていたが、犬の初挑戦である勇姿を目に焼き付けねばならない! 母に見せるために動画も撮る。犬は一歩も踏み外さずに板の上をスタスタスタ…とモデルさながらに真っ直ぐ歩く。

二本より四本で歩くと安定するのかとも思うがそれでもきれいに一途を辿る。器用さに感心するが…んんん? なんだかこの歩き方には見覚えがある…! そうだ! 犬は普段の散歩でもよく道路の白線の上だけを歩いているのだ!

犬

だから上手なんやねってことかはわからんけど、日常の習慣がこんなふうに表れたならおもしろい! そしてちょうど道の駅で温泉組と合流。父と母のツヤツヤした顔からいい湯だったのは明らかである。吊り橋を渡っている動画を母に見せると「すごい!!」とびっくりして犬を褒めていた。

犬から渡っていったがそれでも無理をさせていたのではと気がかりだったので「怖がってるように見える?」と尋ねたら「全然怖がってなさそう」と笑ったので胸をなで下ろした。まぁ犬の本音は犬にしかわからんけどさ。

犬
犬

満ちたりた気持ちで龍神村をあとにする。世界にまたひとつ大好きな場所が増えてうれしい。私の太ももにちょことあごを乗せた犬の眉間をなでる。

海

行きとは違う道を使って帰ることにして、少しだけみなべ町の海に立ち寄った。時刻は16時、冬の夕暮れ時の海は貸切。波際で母と犬が遊んでいたら思いがけず波が近寄ってきて、ふたりして慌てた。

犬

せっかく濡れずにすんだのに、自ら海に寄っていっては手足を濡らす。鼻を水面に寄せて潮のにおいを嗅いでいるのだろうか。

犬と海
犬

いい一日だった。2023年もこんな豊かな時間を過ごせるといい。

第1回~12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載した『inubot回覧板』(扶桑社刊)。こちらも犬の魅力が満載なので、ぜひご覧ください。

 

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