グラフィックデザイナーの西出弥加さんと光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という特性をもちながら、結婚。そして結婚から約1年たった現在、別々に暮らしています。
ADHDの夫・光さんはもともと炊事などの家事が苦手でしたが、現在克服し、毎日自炊をしているそう。そこまで成長できたポイントを妻・弥加さんがつづってきれました。
家事が苦手なADHDの夫が、毎日自炊ができるようなったワケ
私の夫はADHDで妻の私はASD。お互いの仕事を続けるため300km離れた場所で別居中です。私はリモートで毎日、夫に家事や仕事の指示をしています。
なぜ、私の指示が必要なのかというと、ADHDの特性をもつ夫は日常生活における抜けやもの忘れが多く、そもそもの家事が苦手だからです。
そんな夫も今では毎日ごはんをつくり、きちんと掃除をして暮らすように成長しています。今回は、苦手だった自炊が毎日できるようになった秘けつをお伝えします。
●毎日の料理はシンプルメニューで固定
レシピ本に書かれているメニューは、種類も多く、たくさんの食材を使って複雑な工程を重ねているものが多いです。
おいしそうなメニューが多いのですが、夫の場合は本を見ながら毎日違うものをつくるということが苦手です。仮に慣れない料理をしようとして使う頻度が少ない食材を買ってしまうと余っている残りの存在を忘れ、冷蔵庫にしまい込んだままということもよくありました。
さらに、別日につくろうとして買いだめした食材も忘れ、放置して干からびさせてしまうことも。
出会った頃、夫の部屋にある冷蔵庫を開いたらミイラ化した野菜がゴロゴロと横たわっていたことがありました。
そこで夫は、食材のムダもなく自炊を続けていくために、自分が失敗しない【3つの決まり】をつくったのです。
(1) 買いだめはしないと決める
まず買う食材のカテゴリーは「肉か魚・野菜・果物」という3種のみ。食材を買ったことを忘れてムダにしないように、買いだめは一切しないと割りきりました。スーパーに行く機会は増えてしまいますが、その日食べるものだけを買うとシンプルに決めることにしたのです。
(2) つくるメニューは3品のみと決める
ある日の食事の例です。おかずは1品のみ、そしてご飯にヨーグルト。これで3品になります。
ただ完全に同じ食材だと飽きてしまうので、具材にはレパートリーをもたせます。
たとえば今日は牛肉ではなく豚肉にしようとか、鮭ではなく真鯛にしようとか、その日ごとに気分で変えます。ヨーグルトに添えるフルーツも無限にあるので選ぶときは楽しめているようです。
(3) 調理法はシンプルに。焼いて盛りつけるだけ
肉と魚は凝った味つけをせず、焼くときには塩コショウのみと決めます。
たまにバジルソースをかけたりトマトソースをかけたりしますが、隠し味を入れることを一切やめ、なるべくシンプルな工程を目指しました。
3品と決め、シンプルな調理法を目指しただけで、とてもバランスがいい献立になりました。
●焼くことと盛りつけ以外しない
夫は料理をするうえで、生地をこねたり寝かせたり、弱火でコトコト煮たりといったことは苦手で、物事を順序立てているつもりが、どこかで抜けが出てきて失敗してしまうようでした。
そういうタイプの人は、そもそもの料理のハードルを下げることが重要です。夫に関しては、シンプルな調理法を本人が考えた結果、「焼くだけにしよう!」というところにたどりついたというわけです。
肉か魚を焼けば終了なので、調理時間は毎日15分ほどで済みます。
集中力が続かない場合や忙しいときは、このように素材の味を生かして料理するのがベストだと私も思っています。集中力がきれる前に料理を終えられるよう、また失敗も少なくて済むよう、極めてシンプルすぎる調理方法に絞ったのです。
●バリエーションのための調味料は種類豊富に集める
食材やつくり方はシンプルに固定し、最後の味つけけに使うものはたくさん集めて見える場所に並べておくことにしました。食べる前にかけるだけ、振るだけでお手軽に味が変わるので、毎日同じ種類のメニューでもバリエーションができて、飽きづらいというメリットがあります。
●人に見せたくなる、健康的なメニューを目指す
料理は日常であり、毎日続けなければいけない、人に食べてもらうことがないと、地味になりそうな家事のひとつです。
「地味なことは苦手で、どうしても意欲が削がれやすい」と日頃から言っていた夫は、人に見せることや、健康に繋がることを料理のモチベーションにしています。料理をするときは、赤、緑、黄色の三原色を必ず取り入れ、目に入ったときに彩り豊かな印象にすることを目標につくっています。
高級フレンチ料理のような奥深い色合いはないかもしれませんが、シンプルな基本の3色をおさえることで、盛りつけの基本を学べて栄養も満遍なく取れます。
炊飯器のスイッチを押して、ご飯が炊ける間に魚か肉を焼き、盛りつけるだけ。
可能なかぎり工程を削いだ結果、失敗をせずに毎日の自炊が続くようになったのです。
●簡単な調理器具に積極的に頼る
夫は多くの工程があると、途中でなにかを忘れてしまうことが多いですが、一点集中で実行することは得意です。
たとえば、あれこれ調整が必要な土鍋でご飯を炊くのは苦手でも、ボタンひとつで炊飯できる調理道具なら失敗しません。こういう家電に積極的に頼ると決めてしまうのです。
今は調理家電が充実していて、忙しい人や男性も積極的に炊事ができるようになったので、ありがたい時代になったと思います。
仮に、発達障害の特性がなかったとしても、苦手なことはだれにでもあるはず。暮らしは日々コツコツ続けていくことだからこそ、複雑化しない工夫は大切だなと感じています。
【西出弥加さん】
絵本作家、グラフィックデザイナー。1歳のときから色鉛筆で絵を描き始める。20歳のとき、mixiに投稿したイラストがきっかけで絵本やイラストの仕事を始める。Twitterは
@frenchbeansaya