T邸は、ビルや店舗が建ち並ぶ大通りから少し入った住宅地の一角に建ちます。JRのターミナル駅から徒歩数分の立地なので、将来周りが建て込む可能性も大いに考えられる場所。すでに南と西には隣家が迫り、東の隣地ではマンションの建設も始まっていました。どうすれば快適な住まいができるのか……?これが今回の設計の大きなテーマとなりました。

目次:

光と風を呼び込む、東と西に配した2つの庭ちりばめられた居心地のいい場所自然素材と薪ストーブでやすらぎを

光と風を呼び込む、東と西に配した2つの庭

群馬県に暮らすTさんは、夫婦と高校生の息子さんの3人家族。これまでTさん一家が暮らしていたのは夫の実家で、両親が亡くなったあとその古家を引き継ぎ、手直ししながら住み続けてきました。
しかし、子どもが成長するにつれて手狭になり、建て替えようにも土地が狭く、限界があったといいます。どうしようかと悩んでいたとき、チャンスが巡ってきました。今の敷地の半分が売りに出たのです。

もともと残り半分は駐車場として所有していた土地で、隣地を買い足せば、車道から距離を置いた場所に、より広い家が建てられるというわけです。

Tさんの家
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しかし、将来にわたって建物が建たないのは北側だけという悪条件の土地。そんな難問を解決してくれるのは建築家しかいないと、縁あって出会った佐久間徹さんに設計を依頼しました。
外観はシンプルなボックス型。将来を見越してか、大きな開口部は見当たりません。1階は中央にピロティ形式の駐車場があり、右手に玄関、左手に茶室を配置しています。

Tさん邸

では家の中へ。外観からは想像できない展開です!

佐久間さんが提案したのは、2階LDKの東と西の両方に庭を設けること。「光庭」と名づけたその外部空間は、LDKを穏やかな光で満たし、風も通してくれます。

Tさん邸

右手に薪ストーブコーナーがありますが、それを出窓のように飛び出させることで、開放的なLDKとなりました。光庭、階段室、薪ストーブの上の高窓など、あちこちから光が入っているのが分かります。

こちらはダイニングから見た東の光庭。

Tさんの家

デッキを敷いた光庭は「使う庭」。キッチンで淹れたコーヒーを片手に一息つくのもいいですね。

Tさんの家

西の光庭側を見たLDKは、木製サッシの色に合わせて塗装した長いフローリングが広がりを演出しています。西の光庭の足元には苔が植えられ、和庭の趣です。

Tさんの家

木製サッシに目がいきますが、木製サッシは見た目に美しいだけでなく、気密性や断熱性、防火性も兼ね備えているんです。
ちなみにメーカーは、アイランドプロファイルの「プロファイルウインドー」です。

光庭そばのキッチンは、対面にカウンターを設けたセミオープン型。

Tさんの家

夫も息子も料理好きで、3人それぞれがキッチンに立つそうです。

Tさんの家

ちりばめられた居心地のいい場所

2階以外にも、多様な居場所が随所にちりばめられているT邸です。

しっとりと落ち着いた空間のこちらは、お茶をたしなむ妻の希望で設けた1階の茶室。手前には水屋もあります

Tさんの家

茶室は1階にありながら2階から専用階段でアクセスするので、離れのような趣があり、ゲストルームとしても活用しています。

Tさん邸

茶室の地窓からは、植えられたトクサが眺められます。風情がありますね。

Tさん邸

家族全員、お風呂にこだわりが。朝風呂が習慣の一家の要望で、3階南の一等地に浴室は設けられました。

Tさんの家

奥の緑は2階西側の光庭から伸びた木の梢です。自然光がそそぎ、緑も楽しめる、最高の浴室ですね。
一方洗面室は……。まるで照明のような明るい光が天窓から降り注いでいます。

Tさんの家

プライべートルームもご紹介しましょう。

コンパクトな3階主寝室は、地窓から緑がチラリと見えています。ホッとできますね。一角には仏壇もスマートに納まっています。

Tさんの家

子ども室のベッドコーナー。

Tさんの家

窓辺には長男が生育中の苔類などがずらり。ベッドそばには、勉強がはかどりそうなデスクが。右手には家族共有のライブラリーと連続しています。

そのライブラリーがこちら。

Tさんの家

子ども室とは引き戸で仕切れますが、普段はほとんど開放しているそうです。机の前の開口部は2階東の光庭の吹き抜けに面しているから、ごらんの通り明るい光が入ります。

3階から階段を見下ろした様子。窓から入った光は、階段の吹き抜けにより階下にも明るさを届けます。

Tさんの家

自然素材と薪ストーブでやすらぎを

T邸がこんなにもやすらぎが感じられるのは、ひとつに自然素材を使用していることが大きいようです。

主にどんな素材が使われているのか見ていきましょう。

床はやわらかな杉の無垢フローリングです。

Tさんの家

「杉の無垢板はやわらかくて足触りがよく、座りやすく、寝っ転がることもできる。そういう意味では畳に近く、畳よりは掃除もしやすい」と佐久間さん。杉や檜などの国産針葉樹のフローリングは、4mの長さが生かせるのも魅力。
薪ストーブコーナーには、独特の味わいを持つ大谷石を壁と床に張りました。

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特に冬場はここで長居する家族の様子が目に見えるよう。収納の扉にはラワン合板を多用。

Tさんの家

うまく活用すると空間にメリハリがつくと佐久間さんは言います。

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ソファも木のぬくもりが感じられるものを選びました。落ち着きのあるインテリアに馴染んだホワイトオークのローソファ。飛騨産業の製品です。座面の低さもくつろぎ感を高めてくれるのではないでしょうか。

自然素材を生かした落ち着いた空間で、息子が巣立つまでの時間をゆったりと過ごすTさん家族。条件の厳しい土地でも、アイデア次第で心地いい家は建つのだと教えてくれる好例です。

設計/佐久間 徹(佐久間徹設計事務所
撮影/目黒伸宜
※情報は「住まいの設計2017年9-10月号」取材時のものです