長く使うものが少なくなり、気軽に買い替えることが当たり前になった今。「本当にいいものを長く使う暮らし」に憧れる人も多いのではないでしょうか。ものの数を減らしながら心地よく暮らすヒントは、日々使う道具の選び方にあるのかもしれません。今回は、片付けのプロである下村志保美さんに、20年以上使い続けている2つの鍋について伺いました。「1つのものを長く使うよさ」を教えてもらいます。
※ ESSEonline10周年の記念特集「私と10年」。ESSEonlineライターが「この10年愛用しているもの」をテーマに書き下ろします。
すべての画像を見る(全4枚)人生の節目でお迎えした、「2つの鍋」の存在
わが家のキッチンには、20年以上使い続けている鍋が2つあります。
ひとつは28年使っているフィスラーの圧力鍋、もうひとつは21年使っているル・クルーゼの鍋です。どちらも、私の人生の節目で迎えた道具でした。
圧力鍋を購入したのは、長女を出産した年。娘と同い年です。孤独だった育児を支え、海外駐在中の生活を助け、娘の受験期には毎日のお弁当づくりを支えてくれた、まさに人生の相棒のような存在です。
一方、ル・クルーゼの26cmの鍋を購入したのは、自宅を新築したとき。ガスコンロからIHコンロに変えたタイミングで、いくつか鍋を買い替え、そのうちのひとつがこの鍋でした。
近所のイオンで購入した真っ赤なル・クルーゼ。見た目のかわいさに心が弾み、マイホームを手に入れた高揚感もあって、キッチンに立つのが楽しくなったのを覚えています。
26cmと大きめのサイズなので、土鍋代わりに使ったり、おでんをたっぷりつくったりと、フランス製の鍋らしからぬ使い方もしてきました。
それでも21年経った今も当たり前のようにキッチンにある。特別扱いするわけでもなく、日常の中に自然ととけ込んでいる存在です。
「長く使えるか」を基準に選ぶと、ものの数は増えなくなる
この2つの鍋は、いわゆるブランド品です。でも正直に言うと、購入当時の私はその価値をよくわかっていませんでした。ただそのときの状況や気持ちに背中を押されて選んだだけです。
それでも結果として、圧力鍋は28年、ル・クルーゼは21年使い続けています。
そう考えると、どちらも今の価格に比べると安いけど、当時の私には決して安い買い物ではありませんでした。
そして、もうひとつ思うのは、「長く使えるかどうか」を基準に選ぶと、ものの数は自然と増えなくなるということです。
気軽に買って気軽に手放すものではなく、「これから先も使い続けるか」を考えて選ぶ。すると不思議と、買い物の回数は減って、ひとつひとつのものとの関係が深くなっていきます。結果として、家の中も、気持ちも、ずいぶんと整っていきました。
2つの鍋は自然と「時間を共有する存在」に
人生の節目に選んだ道具は、その後の暮らしを長く支えてくれる。そんなことを実感しています。
ものをたくさんもつより、いいものを長く使う。
この2つの鍋は、そんな「長く使う暮らし」の価値を教えてくれました。
ちなみに、数年前から同居している娘夫婦も、この2つの鍋を当たり前のように使っています。その姿を見ると、少し不思議な気持ちになります。
私が選んだ道具が、世代を越えて使われている。
もしかしたらこれから先、私がこの鍋を重く感じて使えなくなったとしても、娘たちがそのまま使い続けてくれるのかもしれません。そう思うと、この鍋はただの調理道具ではなく、家族の時間をつないでいく存在のようにも感じます。
長く使うというのは、単にものを大切にすることではなく、暮らしや記憶が受け継がれていくことなのかもしれません。
フィスラーの圧力鍋も、ル・クルーゼも、これからもずっとわが家のキッチンにあり続けるのだと思います。



