小さな商店街の途中にある、3層から成る間口の狭い建物。ここは、設計事務所のアトリエ+二世帯住宅です。1階は建築家の清水貞博さん、松崎正寿さん、清水裕子さんの3人が共同で営む「atelierA5建築設計事務所」。2・3階には清水さん夫妻と中学生の長女、貞博さんの両親が二世帯で暮らしています。たくさんの要素が詰まった建物ですが、その敷地は間口が狭い31坪、さらに三方に隣家が迫った「うなぎの寝床」。「室内はさぞコンパクトなのでは?」と思いながらドアを開けると、そこには驚くほど明るく開放的な空間が広がっていたのです。
RC造と木造でパブリックとプライベートを切り替える
2つの世帯の住宅、そして事務所。3つのスペースが快適さとほどよい距離感を保っている秘密は、プランと構造の工夫にあります。
すべての画像を見る(全17枚)1つが、1階のアトリエはRC造、その上に木造2階建ての住まいが載る混構造にしたこと。2階の住まいには、玄関からアトリエ隣の階段を上がってアクセスします。
「2階から1階に下りてくるとスイッチが切り替わります」と裕子さん。コンクリート打ち放しのアトリエは両サイドの壁に扁平な柱が入った特殊な構造で、室内に柱や梁の出っ張りがないトンネル状の大空間を実現しています。
「外」を挟んで光と風を採り入れ、適度な距離感をつくる
構造上、1階左右の壁に開口部は少ないですが、中央に中庭がありガラス越しに光が入るため、閉塞感はありません。
この中庭を挟んで手前が打ち合わせ室、奥が設計室になっています。
2階に上がると、中庭の上はグレーチング(金属の格子)を張ったテラスになっていて、テラスを挟んで道路側に親世帯、奥に子世帯のLDKをレイアウトしています。
まるで路地を挟んで2軒の小さな家が建っているような佇まい。
テラスは両世帯と階下のアトリエにも光と風をもたらし、世帯間のほどよい緩衝帯にもなっています。
「上下で完全に分離した二世帯住宅は、ろくに顔も合わせない生活になりがちですよね」と貞博さん。テラスを挟むことで「おいしそうなものを食べてるなとか具合が悪そうだなとか、相手の様子がちらちら見えるぐらいがいいと思いました」と裕子さんが続けます。普段の暮らしは別々ですが、子世帯のダイニングで一緒に食事をすることもあるそう。
こちらは親世帯のLDKからテラスを見たところ。
長女が2階にひとりでいるときも、テラス越しに見守ってくれる祖父母の存在に安心できそうですね。
特殊な構造で室内がぐんと広く、伸びやかに
もう一つの工夫が、住宅部分の構造です。
周りに見える斜めの柱で建物を支えることで邪魔になる柱や壁をなくし、木造ながらここまで開放的な空間を叶えました。
テラスに面して全面開口があるうえ、残り3面にも高窓があるので2階全体が半戸外のよう。
バスルームは使う時間帯がずれるため、二世帯共有にすることでゆとりある広さを確保しました。
正面のハイサイドライトや左手にある小さなテラス越しに入る光で、明るさも十分です。
家具のようにシンプルで美しいキッチンは二世帯で同じデザインに。
こちらは親世帯のキッチンです。
プライベートスペースは広がりと落ち着きの空間に
ガラス張りの開放的な2階とは対照的に、寝室などプライベート空間を集約した3階はガルバリウム鋼板張りに。
子世帯の3階にあるプライベートリビングは高い天井高を確保し、開口部を抑えて広がりと落ち着きを両立しています。
子世帯の主寝室は、上に予備室のロフトを作ったため天井高を抑えてコンパクトに。正面に見える壁際の配管スペースをニッチとして活用しました。
主寝室の隣は中学生の長女の部屋。トップライトから吹き抜け越しに光が注ぎ、コンパクトながら開放的です。
寄棟状の屋根の形を表しにした親世帯の寝室は、伸びやかで気持ちのいい空間です。シャワールームを設ける案も検討したそうですが、清水さんの妹や弟一家が頻繁に泊まりにくるため、部屋の広さを優先しました。
外部空間をうまく織り交ぜることで適度な距離を保ち、自然に気配を伝え合う住まい。職住近接に二世帯同居と、これからの暮らしを考えるヒントになりそうですね。
設計/清水貞博+松崎正寿+清水裕子(atelierA5建築設計事務所)
撮影/桑田瑞穂
※情報は「住まいの設計2018年3-4月号」取材時のものです