いざというとき、自分や家族の身をどう守るか。防災への意識が高まる今、具体的な準備に迷っている人も少なくありません。国際災害レスキューナースとして数多くの被災地で活動し、『最強防災マニュアル2025年版』の監修も務めた辻直美さんに、身近なアイテムで手軽に始められる防災術を伺いました。

2018年の大阪府北部地震で被災した様子。辻さんのお隣さんは、キッチンの原状復帰に約60万円かかったそう
2018年の大阪府北部地震で被災した様子。辻さんのお隣さんは、キッチンの原状復帰に約60万円かかったそう(写真提供:辻直美)
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国際災害レスキューナースの活動とは?

辻さんは看護師の資格をもち、30年以上にわたり国際的に活動する災害支援ナースとして、国内外の災害現場で救護活動や医療者支援に従事してきました。これまで、東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨など国内の災害だけでなく、台湾やニュージーランドで発生した地震など海外の災害現場でも活躍。その活動は30か所以上に及びます。

「日本国内には災害に携わる看護師の仕事が大きく分けて2種類あります。災害医療派遣チームなどで負傷者の救護活動を行う『災害ナース』、そして被災地の医療機関を支援する『災害支援ナース』です。私は両方で活動する看護師として、災害現場における医療支援を中心に取り組んできました。過去には国境なき医師団の活動で上海に赴任した経験もあります」(辻直美さん、以下同)

辻さんの主な仕事は、被災地の医療機関のサポートです。

「医療機関自体が被災し、人手が不足している場合に、私たちが現場に入って支援することもあります。もちろん、負傷者の救護活動も行います。また若い看護師への指導や防災に関する講演、企業コンサルティング業務に力を入れています」

地震で体が1メートルほど飛んだことも

お隣の部屋は本棚が倒れてしまいました
2018年の大阪府北部地震で被災した際の隣人宅の様子(写真提供:辻直美)

そんな辻さんご自身も、過去に大きな災害を経験されています。

「1995年の阪神・淡路大震災では、実家が一瞬で全壊しました。当時働いていた病院も半壊してしまい、頑丈だと思っていた建物が崩れるのを目の当たりにしました。また、レスキューで入った熊本地震では、現地で本震を体験しました。負傷者への応急処置をしている最中にドンと揺れが来て、大きな衝撃で体が1メートルくらい飛んだんです。本当に怖かったですね」

2018年の大阪府北部地震でも被災したという辻さん。マンションの自室は無事でしたが、お隣の部屋はぐちゃぐちゃになってしまいました。

「そのときの写真は、防災意識を高めてもらうために、許可を得て近著の『最強防災マニュアル』にも掲載しています」

「どんな災害に遭う可能性が高い」か知ることが大事

『地震10秒診断』でみられる地震予測
『地震10秒診断』では住所を入力して地震予測ができます

ペットがいるなどの理由で、災害時も自宅で過ごしたいと考える人は少なくありません。辻さんは「在宅避難がベストですが、そのためには準備が不可欠です」と話します。

「まず、闇雲にものを買いそろえるのではなく、ご自身がどんな災害に遭う可能性があるのかを調べてください。『地震10秒診断』というサイトでご自身の住所を入力すると、30年以内に震度6弱以上の地震が起こる確率や、ライフライン(電気・ガス・水道)が止まる日数、火災の危険度(延焼率)などが分かります。これを知ることで、どれくらいの備えが必要か具体的に見えてきますよ」

●家が無事でも避難所は頭に入れておく

ただし、自宅が無事でも避難が必要なケースもあります。

「火災や津波、洪水の場合は、家にしがみついていては危険です。そうしたリスクが高い地域にお住まいの方は、やはり逃げることを第一に考えてください。ペットを連れて行ける避難所(同行避難可能な避難所)もあるので、事前に自治体や地域の情報を調べておくことが大切です。避難経路や所要時間も確認しておきましょう」