水一滴で出来が変わるミサオさんの笹餅

笹餅づくり
【ミサオさんの笹餅づくり4】生地を1時間寝かした後。なめらかでとろとろの状態に
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ミサオさんの工房には海外からも人が訪ねてきました。垣根をつくらず、望まれればだれにでも笹餅づくりの様子を普段どおりにやって見せ、世代を超えてたくさんの人との交流が生まれ、弟子と名乗る人もたくさんできました。

笹餅を蒸す
【ミサオさんの笹餅づくり5】強火で約1時間蒸す。木製の菜箸を使い、餅に火がとおったかを判断する

現在、ミサオさんの意をくみ、金木の笹餅づくりを伝授する活動を行うお弟子さんたちもいます。

「水1滴で違うと、教えられました」というのは小嶋美子さん。ミサオさんは95歳の春、35年続けてきた笹餅づくりを引退し、いまは“ミサオさんの笹餅の後継者”として姪の娘にあたる美子さんが笹餅をつくっています。

「将来、この笹餅をつくりなさい」。受け継ぐ弟子の覚悟

美子さんにとって小さいころから“おばちゃん”と呼ぶほどミサオさんは身近な存在。

「将来、この笹餅をつくりなさい」とミサオさんから声をかけられ、50歳を過ぎてから笹餅づくりの作業をときどき手伝い、本格的に学び始めたのは美子さんが定年が近くなってからでした。

笹餅つくり途中
【ミサオさんの笹餅づくり6】熱いうちに皿に移し、餅をちぎっていく

笹餅1個つくるための手間と労力は果てしなく、もうけは薄い、なかなか継ぐ覚悟ができなかったといいます。

「たった1滴の水が多いか、少ないかで生地は違うものに変わってしまう。おばちゃんは手の感触でそれを的確に見極められるぐらい体が覚え込んでいました。自分がそこまでわかるようになるにはいったいどれくらい時間が必要か…」と美子さん。

「失敗したからダメだで終わったらそこまで。失敗してもそれがまた勉強になる」

笹餅をつくる
【ミサオさんの笹餅づくり7】笹のつけ根に餅をのせ、三角になるように折って包む

ミサオさんも笹餅づくりを始めたのは還暦を過ぎてから。だれに教わることなく、自分の舌を頼りにつくり上げてきました。

「ダメならダメで自分のできる範囲内のことをやることだな。失敗したからダメだで終わったらそこまで。失敗してもそれがまた勉強になるんだ」と語っていたミサオさんの前向きな言葉が心に残ります。

笹餅を蒸す
【ミサオさんの笹餅づくり8】笹に包んだ餅を蒸し器に並べ入れ、約1分蒸す。笹の風味がほのかに餅につく

新しいことを始めるのはいくつになってからでも遅いということはないのです。好きという気持ちと向き合いながらコツコツ続ける努力があれば。ミサオさんはみずからの人生をそうやってきり開いてきたように思えます。

笹餅おばあちゃんで知られる桑田ミサオさんは98歳。チャーミングで働き者のミサオさんの日常は、とても美しい。人生は自分の受け取り方ひとつで変わってくるというミサオさん。知恵の詰まった、人生と、暮らしの本。『笹餅おばあちゃんの 手でつくる暮らし』(扶桑社刊)は発売中です。

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