女性の健康問題に対応する「女性外来」のパイオニア的存在として知られる、医師・天野惠子さん。自身がつらい更年期を体験したことがきっかけで、「性差医療」と出合い、女性医療発展のため、81歳を超えた今も現役の医師として働き続けています。今回は、そんな天野先生にご自身の体験や、更年期で気をつけた方がいいことを伺いました。

天野惠子先生
天野惠子先生
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81歳現役医師が経験した更年期症状。一気に押し寄せ“地獄”のような日々だった

――天野先生は大変な更年期を経験されたと伺いました。いったいどのような症状だったのでしょうか?

天野惠子先生(以下、天野):著書『81歳、現役女医の転ばぬ先の知恵』でも書きましたが、私は更年期の症状が本当にひどかったです。更年期は病気じゃないなんて言いますけど、終わるまでは病気だと思いますよ。

私の場合は、40代に差しかかった頃に、更年期の前触れのような症状に見舞われて、48歳のときに生理時の過多出血が始まりました。そして、50歳。閉経を迎えた際に、排尿時に突如、おしっこが止まるという症状が現れ、「子宮筋腫」と診断され、手術を受けることになりました。

――そこで子宮を全摘することになったのですね。

天野:加えて、「卵巣がんになる人が増えているから」ということで、両側の卵巣も摘出。年齢的には卵巣の役目を終えようとしていましたし、“がんのリスクを避けられるのなら”ということで手術を受けたのですが、そのあとも、とにかくさまざまな症状に苦しめられました。

手術から3年経った53歳のときには、ホットフラッシュのような症状があって。尋常でないほどの肌荒れ、発汗、全身の痺れ、冷えや関節の痛み、重度の疲労感など、何年も続きました。それこそ、ひどいときにはコートを着ることができないほど。ウールでは重たいので、真冬でも薄いコートに使い捨てカイロを貼って出勤。そうしてなんとか勤務していても、2人診療したら横にならざるを得ないような調子でしたね。

まさに地獄のような熾烈な日々。体調不良もしんどかったですが、記憶力や集中力の大幅な低下も堪(こた)えました。こんなにつらいのに治療法がない。そんな絶望感が、女性医療を前進させたいと強く思うようになったきっかけです。

――今は女性特有の不調として、月経痛や更年期などが知られていますが、昔はそこまで広く知られていなかったのでしょうか。

天野:今でこそ女性と男性ではなりやすい病気などに違いがある「性差医療」という考え方が知られていますが、じつは、医学は成人男性を基準に確立されてきたもの。医療において、女性は男性の“ミニ版”とされていて、長年、男女の体には体格と生殖機能以外には根本的に異なる点はないと考えられていたんですよ。でもそんなことはけっしてありません。

生物学的な性差は、主として「性ホルモン」によって形成されますが、女性の健康に大きな影響を与えるのが「エストロゲン」です。月経や妊娠・出産への貢献にとどまらず、女性らしさを支えるホルモンでもあり、記憶力をはじめとする脳の機能を維持するのにもひと役買っています。ただ、このエストロゲンは30代後半から閉経に向け徐々に揺らぎながら減少していくんです。