年齢を重ね、ホルモンバランスや自身を取り巻く環境に変化があると、心身に変化が訪れます。こういった更年期の症状に悩んでいるひとりが、漫画家のおぐらなおみさん。今から8年前に症状が表れたと言います。当時は一体どう対処すればよかったのか、産婦人科医の高尾美穂先生との対談でお届けします。
すべての画像を見る(全3枚)更年期でも皆が「更年期障害」ではない
おぐらなおみさん(以下、おぐら):なんとなく不調を感じ、だるい日々が続くようになったのが47歳頃。それからは動悸、滝のような汗、生理不順など…。当時は自分が更年期なのかもわかりませんでした。
高尾美穂さん(以下、高尾):「更年期」とは全女性が迎える時期を指す言葉で、「成長期」や「思春期」のようなもの。おぐらさんは時期的に更年期に当てはまりますが、更年期障害ですか?」と尋ねられて、すぐに「はい」とは答えられません。更年期と似たサインを出すほかの病気も疑って、病院で検査してみる必要があるんですよね。
おぐら:ほかの病気、とは?
高尾:おぐらさんの症状だと、多くの医師はまず甲状腺機能亢進症を心配します。甲状腺の働きが活発になりすぎると代謝が上がって汗が出る。代謝が上がると心臓がドキドキ打つので、動悸も代表的な症状です。
おぐら:確かに症状が似ています。
高尾:それ以外の病気の可能性もあるので、まずは検査を。特定の病気が原因でなければ、「女性ホルモンのせいだね」となる。つまり、それが「更年期症状」ということ。症状が日常生活に支障をきたすほど重ければ、「更年期障害」といいます。
おぐら:更年期障害と診断されたら、治療していただけるのですか?
高尾:ホルモンの変動によって起こる不調であれば、ホルモン補充療法が効果的。個人差はありますが、約2か月でずいぶん改善されますよ。
おぐら:2か月で!? 私も早めに受診していれば、何年も悩まなくてよかったのかも…。自分の気力でなんとかしようと思ってしまいました。
高尾:多くの女性がそう過ごしています。年齢を重ねれば、だれでも不調が起こりやすくなるもの。女性の不調はホルモンが関わっていることが多いからこそ、更年期は体が大きく変化するタイミング。人生の曲がり角と考えて、自分の体や心、働き方や生活環境などを見直すタイミングにしていただけるといいですね。
家族や職場に理解してもらうには
おぐら:不調を感じ始めたのは子育てが一段落して、次は仕事を思いきりしよう! と決意した時期。それなのに集中できない状態で、一日じゅうソファに横たわる日もありました。できない自分が悔しくて…。
高尾:8年前だとまだ、本人も「なまけている」と思っておかしくないし、周りもそう思ってしまう時代でした。今ではずいぶん世の中が変わってきていて、企業などで男性が女性の健康課題について学ぶ機会も増えています。
おぐら:そうなんですね。当時は、家族には相談できませんでした。なんとなく話題にしづらいテーマというか…。
高尾:家庭でも職場でも、更年期の女性に対して「そっとしておこう」という風潮でしたよね。「そっとしておこう」はいい言葉の反面、放置するという意味も。これから大事なのは、女性側が「ちょっと調子がよくないんだよね」と言葉で伝えられるようになること。頼めることは人に頼んで、近い人に調子が悪いことを知ってもらう。それだけでも気持ちはラクになりますから。パートナーがいるなら、一緒に考える機会になれば。
おぐら:ある意味、更年期は夫婦関係を見直すチャンスですね。うちは結婚当初から夫が激務で、私がワンオペで家事と子育てをこなしてきたので、このままではいけないとずっと思っていて。これを機に話し合ってみることで、老後に少し明るい兆しが見えそうです。
高尾:更年期のしんどさも夫婦の共通課題にできるといいですよね。この時期のコミュニケーションは、この先30年の夫婦関係に影響が出ると思うんです。「更年期がひどかったとき、私どんなふうに見えてた?」と、聞いてみるのもありだと思いますよ。