国連の持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)が発表した2024年度の「世界幸福度ランキング」において、日本は51位。2023年の47位から順位を下げることになりました。なお、G7でも最下位となってしまいました。生きづらさを感じる人が多い社会において、注目されているのが「禅」の考え方。登録者数67万人超えのYouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」では、僧侶である大愚 元勝(たいぐげんしょう)さんが、 生き方、人間関係、老いへの恐怖などさまざまな悩みに、禅の考え方をわかりやすく紹介しながら答えています。ここでは、大愚和尚の人生のヒントになる禅語とメッセージをご紹介します。
自立と孤立は似て非なるもの。「お互いさま」の精神で助け合って生きる
「相互依存」は、自立した者同士がお互いに支え合って生きる、そんな理想の生き方を表した言葉です。
私は、今の社会において、この生き方をとくに大事にしたいと思っています。なぜなら、なんでも自立、自立と、自立することがいいこと、当たり前のことのようにいわれている現代社会にあって、自立したと勘違いして、孤立してしまう人が増えているからです。
仏教では「縁を大切にしながら生きる」生き方を提案します。「人」という文字が、2人の人が寄りかかっている様子を表した象形文字であるように、「人間」という言葉が、「人のあいだ」と書くように、人間はひとりで生きられる動物ではなく、家族や友人を得て、お互いを必要としながら、助け合い、支え合って存在する生き物なのです。
「駅にエレベーターができて残念」と感じた理由
以前、ある弟子が漏らしたひと言がとても印象に残っています。
「久しぶりに田舎の実家に戻ったら、地元の駅にエレベーターができていました。便利になったのはいいけれど、助け合う機会がなくなってしまって残念です」
彼曰く、以前は地元の駅に長い階段があり、車椅子の人やベビーカーを押している人がいると、通りがかりの人々が協力して階段の上まで運んでいたそうです。とくに、地域の高校生たちが喜んで手伝ったりしていて、駅の不便な階段が、人々の心を潤す機会と空間を提供してくれていたといいます。
まさに、「相互依存」の好例だと思います。助けてもらって「ありがとう」と謙虚になる人、助けてあげることができて、清々しい気持ちになる人。温かく豊かな交流が生まれ、その場がなごみます。
ハンディキャップを持っている人、子育てをしている人、若くて力のある人…いろいろな立場の人がひとつの社会で調和して生きる、理想の社会の縮図といえるでしょう。
エレベーターをつくることで、車イスの人やベビーカーを押す人たちは助けてもらう必要がなくなりました。もちろんそれは、ハンディキャップをもつ人にとって、心身の負担を大きく減らす優しい改善に違いありません。
身内を頼らずに孤立して死んでいく高齢者
しかし、個人個人の暮らしにおいても、お金さえ出せば、家事のアウトソーシングもできますし、掃除も洗濯も発達した機械がやってくれます。
だから、「自分は自立している」「自分ですべてできる」と思い込み、自分が万能だと勘違いしてしまう人も出てきます。すると、他人を必要としなくなり、徐々に孤立を深めてしまうのです。
人との結びつきが希薄になり、それが高じると、たとえば会社では「この社員が辞めても替えはいくらでもいる」と思ってしまいますし、家庭では「いつでも離婚してやる」と思うようになります。人を人と思わない傲慢な人間関係が蔓延する社会ができ上がってしまいます。
逆に、助けが必要な側も、だれにも甘えられず、ひとりでがんばろうとしてしまい、孤立する人が増えています。最近では、死ぬ間際においても迷惑をかけたくないからと、終活まで身内を頼らずに自分ですませようとする高齢者が増えています。