暮らしを小さくするのも、しんどくならないための工夫のひとつ
――今、「暮らしを小さくする」考え方が広まり、それがとても人気です。一田さんが見直した、小さな暮らしのための習慣はありますか?
一田:器が好きで、作家さんの個展に行くたびに新しいものを購入していました。若い頃は、稼いだお金で器を買い、それを使う経験を重ねる「学び」の時期だったように思います。今までそうやって続けてきた学びも、50歳を過ぎた頃から「もうそろそろよくない?」って思い始めたこともあり、買い控えるようになりましたね。これまで持っていた器は人に譲るなどしてうんと減らしました。
すべての画像を見る(全6枚)――お気に入りの器を厳選されたんですね。
一田:今ある少ない器を使って楽しむモードに入ってきたかなあ、とは思いますよね。これまでのようにたくさん働けないとなると収入も変わってくるから、自然と暮らしをセーブしなくちゃ…みたいな気持ちにもなります。
ただね、私はミニマリストの方のように、まったく物を増やさない決心をするとつらくなっちゃう。新しいものが入ってこないと、家の中の空気が停滞する気がするんですよ。好きなお皿を1枚買ってワクワクする気持ちはいつまでも大切にしたい。そよ風程度でいいから、暮らしのなかに新しい風を取り込むのはやっぱり必要なことだと思うんです。
――自分の心地よさを求めているなかで、一田さんの暮らしはどんどんシンプルになっている感じでしょうか?
一田:どうなんでしょうかね? できないことまで無理してやらなくなった、って感じが近いのではないでしょうか。がんばろうと思っても、「これは無理…だわ」って気づくようになりましたね。以前は手帳も財布も大きいものを使っていましたが、持ち歩くのが重いから小さくしたんです。そしたらバッグも小さくていいし、体もラク。自分の体力に合わせていたら、暮らしが自然とコンパクトになった、そういう感じですかね。
一田さんのエッセイ『歳をとるのはこわいこと? 60歳、今までとは違うメモリのものさしを持つ』(文藝春秋刊)には、仕事、健康、家族、介護、更年期…人生後半戦でひたひたと忍び寄ってくる不安や心配ごと。そんな「怖い」を少しずつ手放し、笑顔で歳を重ねるためのヒントが詰まっています。